土壌対策費790億円に加え地下鉄分も負担
“政治主導”で一般会計による穴埋めが決定

 府・市IR推進局の資料によると、IR施設の運営による近畿圏での経済波及効果の見込みは年間1兆1400億円、カジノ運営業者から府と市に毎年入る納入金と入場料の推計額は、それぞれ530億円だ。数字が微妙に異なるが、松井市長はこれらの数字を挙げたとみられる。

 市が負担を決定した経緯を報じた毎日新聞の記事によると、21年6月に松井市長ら市の幹部が出席した会議で、港営事業会計を所管する市の大阪港湾局が、民間企業であるカジノ事業者の建設費用を市が一部負担するのは住民訴訟の対象になる恐れがあるとの弁護士の指摘を紹介。一方でIR推進局が市の負担は妥当とする弁護士の見解を示した。

 最終的に土壌対策費790億円は、市債を発行し、一般会計ではなく、港湾地域の倉庫の利用料や土地の賃料などで成り立つ港営事業会計から返済されることになった。

 なお前述の松井市長のツイートの通り、カジノ事業者らから港営事業会計に支払われる賃料は毎年25億円で、35年間の定期借地契約で得られる収入は単純計算で875億円となる。ただ、土壌対策費790億円との差はわずか85億円。さらに前述の大阪メトロ延伸の追加費用の一部も、港営事業会計で負担することとなっている。

 一般的に港湾や埋め立て地の開発で必要となる土壌汚染対策や地盤改良などの工事は、計画時はその規模を見通しにくく、工事を進めるほど費用が膨らむことが多い。東京・築地から18年に移転した豊洲市場で大問題になったのがいい例だ。夢洲での工事費用が今後さらに膨らめば、想定される賃料収入を上回ってしまう恐れがある。

 6月のこの会議の場で松井市長は「港営事業会計が破綻しないよう、一般会計で支えていくのが当然必要だ」と述べた。これで、市民からの税収などで成り立ち、福祉、教育、土木など市民サービスのために支出する一般会計で港営事業会計を穴埋めすることとなった。財政局が難色を示したが、“政治主導”だったようだ。

カジノ事業者に足元を見られた?
再募集前の会議資料は「黒塗り」

 カジノ運営を担う事業者の中核となるのは、米カジノ大手のMGMリゾーツ・インターナショナルの日本法人とオリックスの2社だ。19年12月に始まった事業者の募集に唯一、この2社の企業連合が応募して、21年9月に決定した。

 事業者の募集は、夢洲の土壌汚染が判明してから21年3月に再度実施され、その際の募集要項には以下の文言が追加されていた。

 IR施設を整備するに当たり支障となる地中障害物及び土壌汚染等に起因して設置運営事業者の負担が増加すると見込まれる場合は、設置運営事業者の施設計画や施工計画等を踏まえ、対応方法等について事前に協議の上、大阪市の設計・積算基準等により、大阪市が当該増加負担のうち妥当と認める額を負担するものとする。詳細については、事業条件書等において示す。

 大阪市はこれまで、夢洲と同様の咲洲(さきしま)や舞洲(まいしま)といった埋め立て地を売却したり賃貸したりする際、土壌汚染対策などの費用を市が負担しないことを原則としてきたが、夢洲のIRをめぐっては、これが例外的に放棄された形だ。なぜか。

 唯一の応募事業者だったMGM・オリックス連合と市とのやり取りが要因となりうるが、それが一体どのようなものだったのか、今なお明かされていない。

 自民党大阪府連は都構想やIRをめぐって、維新と激しく対立してきた。大阪市議会自民党の川嶋広稔議員は21年12月24日、市当局から興味深い資料を受け取った。

 21年3月の追加募集の前の2月12日、夢洲の整備計画の修正案を協議した市の「戦略会議」の資料提供を市当局に求めたが、松井市長ら出席者と概要以外の記述が黒塗りにされていた(下写真)。

戦略会議黒塗り資料開示された戦略会議は全7ページのうち、1枚目の後半以降がすべて黒塗りだった 写真:川嶋大阪市議提供 拡大画像表示