川嶋市議はダイヤモンド編集部の取材に「MGM・オリックス連合側から市に対し、土壌汚染対策などの費用負担の要求があったのではないか。黒塗りの資料にはその内容が記されている可能性がある。どうしてもIRを実現したい市側が、唯一の応募者に足元を見られ、いいようにされているのではないか」と指摘する。

 それでも年間530億円という「リターン」が府と市にそれぞれもたらされるからいいではないか、というのが松井市長の言い分だ。では、その根拠を検証してみよう。

府と市の収入は「コロナ収束が前提」
維新の看板政策、WTCの二の舞に?

 530億円のうち府と市への納入金は、事業者が得る粗利の15%。入場料も当然、入場者数に左右されるので、彼らの事業が不振になれば、府と市の収入も減る。コロナ禍でMGMら世界のカジノ大手が大打撃を受け、大阪・ミナミの商店街を埋め尽くした中国系インバウンド観光客が消え去ったことを考えれば、決して安定した収入とは言えない。

 市IR推進局は取材に対し、これらの見込み額の試算には外国からの来訪客の影響も含んでおり、コロナ禍が今後収束していくことを前提としていると説明した。現在まさに進行している事態の教訓が生かされていないのである。

 かつて大阪湾岸では、市が超高層のワールドトレードセンタービル(WTC、現大阪府咲洲庁舎)を建設したもののテナントが入らず、第三セクターである運営会社が破綻。09年に一般会計から港営事業会計に164億円を拠出して支援した。大阪市民にとっては実に忌まわしい記憶だが、もし夢洲の土壌改良工事で港営事業会計を穴埋めすれば、この時以来の悪夢となる。松井市長がいかに「リターン」を強調しようとも、資料を黒塗りにするようでは、あまりに説得力を欠く。

 橋下徹元大阪市長ら維新はもともと、こうした行政の乱開発の失敗を強く批判して大阪の有権者に浸透。今や地元民放テレビ局の番組に吉村知事らがたびたび出演する人気ぶりで、昨年10月の総選挙では、大阪府内の全選挙区で候補者が当選するほど盤石な地位を築いた。

 ちなみに橋下氏は府知事時代に「増税よりカジノ。収益の一部は教育、福祉、医療に回す」と豪語した。だがコロナ禍で医療の危機は目下、継続中であり、それは維新の行政改革による医療や保健所機能の低下が一因と批判されている。

 コロナ禍初期の20年4月、橋下氏はツイッターで「僕が今更言うのもおかしいところですが、大阪府知事時代、大阪市長時代に徹底的な改革を断行し、有事の今、現場を疲弊させているところがあると思います。保健所、府立市立病院など。そこは、お手数をおかけしますが見直しをよろしくお願いします」と言及した。

 挙句、IRへの「投資」が市民負担に転じれば、WTCの二の舞となり、大阪市政に新たな負の遺産を作り出すことになる。後になって「見直し」をすることはできない。

【訂正】記事初出時より、以下のように修正しました。
1ページ目3段落目:127億円膨らむ見通しであることも判明した。→129億円膨らむ見通しであることも判明した。
(2022年1月21日14:48 ダイヤモンド編集部)