前回(第2回)は、プレゼンテーションの時に起こりがちな、『聞き手の関心を外す』という「落とし穴」を取り上げた。「内容が正しい=相手の態度変容や行動につながる」ではないことをお分かりいただけたのではないだろうか。
第3回の今回は、せっかく相手の関心を理解し、しっかり事実も押さえて分析もしたにもかかわらず、その伝え方が悪くて意思決定にまでいたらなかった例を紹介する。
【失敗例】法人向け健康器具販売P社 本郷君のケース
「時間をかけて分析したのに・・・」
本郷君は健康器具販売を主業務とするP社で営業管理の仕事をしている。P社は、商流は販売代理店を通す形をとっており、テリトリーごとに数社の販売代理店を使い分けていた。
半年前に市場導入した「ヘルシーWエックス」は多目的マッサージチェアにさまざまな測定器具を付加した製品で、利用者の健康状態や疲労箇所などがすぐに診断できるのが売りである。定価は50万円で、代理店への標準仕切り価格は40万円である。高額なこともあって、今のところ、1事業所あたりの購買台数は1台となっている。代理店からの要望に基づき、P社の営業担当者を説明に派遣したり、パンフレットなどを提供したりすることもあるが、それらのコストはP社の負担であった。また、代理店によっては、追加の販促費を必要とするところもある。
◎【図1】代理店別「パフォーマンス」と「コスト」 |
本郷君は、まず、過去の各代理店の実績を分析してみた。販売台数はすぐにわかるので、問題はコストだ。適切な前提を置き、販売1件あたりどのくらいの変動費的コストがかかるかを分析した。その結果が右の図1である。
本郷君は考えた。「一番台数を売っているとはいえ、浅田産業は経費がかかりすぎていて、コストパフォーマンスは良くないな。取引条件も厳しいし、彼らでしか売れない顧客以外は取引を縮小してもいいかもしれない。逆に、遠藤商事と長田産業はコストパフォーマンスも良好だ。この2社は伸ばせる可能性があるかも。あと、内田工業は切ってもいいかな。これを一文字課長に伝えよう」
本郷君は、さっそく図1を見せながら一文字課長に説明した。一文字課長は多忙で、かつ海外出張を控えていることもあり、数分程度の時間しかとれなかった。
「課長、この資料を見てください。『ヘルシーWエックス』の販売実績について分析したものです」
「うん、やはり浅田産業の販売台数が一番多いのか。ここだけ30台を越えているね。あそこは大手だからな。内田工業はやはり今ひとつだね」