前回(第1回)は、本来の目的を見失い、目先の行動に埋没してしまうという『手段の目的化』という「落とし穴」を紹介した。そこでは、「本来の目的は何か?」を常に自問することにより、きちんと「目的を押さえる」ことの重要性を理解いただけたのではないかと思う。
そして第2回の今回は、『聞き手の関心を外す』という、プレゼンテーションの時に起こりがちな「落とし穴」を取り上げる。まずは、新商品の記者発表会で失敗した、ハウスメーカー広報担当 関本君のケースを見てみよう。
【失敗例】ハウスメーカー広報担当 関本君のケース
「言っていることは正しいかもしれないが・・・」
関本君は中堅ハウスメーカーB社の広報室に勤務している。B社は今般、極めて耐震性に優れた新工法による新シリーズ「耐震ハウスB」を市場導入することとなり、さまざまなプロモーション活動を展開することになった。関本君はそうした中、本格的なプロモーション活動に先立ち、雑誌記者や新聞記者数名を対象とした簡単な説明会を任されることになった。本格的な発表会に先立ち、B社が親しいメディアの関係者に簡単に説明をしておこうというものである。
技術部門を歩み、最近広報室に配属になった関本君にとって、メディア関係者を相手に説明を行なうのは初めての経験であった。関本君に今回の仕事が任された理由の一つに、広報室への異動前、この技術開発に彼自身が若干関与していたという事情がある。つまり、彼にとっても思い入れのある技術・商品なのだ。
関本君はこう考えた。「とにかく、この新工法を丁寧に説明し、その新規性と安全性について知ってもらうことが重要だ。どういうきっかけでこの技術が生まれたのか、技術開発をする上で何がボトルネックとなり、それをどのようにクリアしたのか。特許や、既存技術との違いなども伝えたいな」。関本君は技術部門を始め、社内からさまざまな資料を集め、プレゼン資料を作った。説明会の時間は60分。関本君は、彼のプレゼンを40分とし、記者との質疑応答に20分の時間をあてることにした。
そして当日。雑誌や新聞の記者が数名集まった。異動間もない関本君にとっては、ほとんどが初対面である。関本君は、簡単な自己紹介の後、準備したプレゼン資料に基づき、今回の新技術の特徴を滔滔と説明した。ビジュアルスライドもふんだんに盛り込み、聞き手の視覚に訴える工夫も凝らしていた。
しかし、関本君のそうした熱意や工夫とは裏腹に、記者たちの表情は冴えなかった。最初の頃こそ関本君の説明に見入っていたが、時間がたつにつれ、イライラしている様子が伝わってくる。中には、窓の外の風景をぼんやり眺めている記者もいる。