調査資料に記載された、たった一度の妻名義の口座への約30万円の振込が“調査の勘”にひっかかった。調べてみると、その口座は13年間眠っていて6年前に突然目覚めた口座であり、しかも、読み通りの「逆L口座」だった。果たしてこの口座は、脱税のための売上除外口座なのか!?
遠隔地に開設された妻名義の口座が「調査の勘」にひっかかる
内科医Hの調査で「パズルのキー」となったのは、遠隔地に開設された妻名義の預金口座の取引資料だった。妻の旧姓ではなく実名の口座だ。なぜ、遠隔地に口座を開設したのかはわからない。H医師の転居状況を調べれば、かつて、その場所に住んでいたのかもしれないが……。
取引資料には予防接種と記載してあり、妻名義の口座に約30万円が振込まれ、銀行名と支店名及び口座番号が記載されていた。資料には詳細の説明がなく、何の予防接種を行った報酬なのか、報酬の支払内訳にワクチンの材料費が含まれているのか、など詳細はまったくわからなかった。
ただ、報酬の支払時期が秋口から冬にかけて行われているため、一般的にインフルエンザ予防接種に係る報酬だろうと考えられた。資料は個人課税課の機動官が市役所に協力依頼して、予防接種の報酬の振込口座を資料化していたものだった。一般的に予防接種は自由診療だ。
医師の診療報酬は患者が窓口で支払う自己負担金と、医師がレセプト請求をして国民健康保険等から後日振り込まれる、社会保険診療報酬に分かれる。いずれにしても保険診療報酬なら、売上金額はガラス張に近い。
これに対して、自由診療報酬は窓口で現金で支払われるため、売上除外に繋がり易い。しかし、診療所内で行ったインフルエンザの予防接種は一定の時期に行われ、ワクチンは翌年になると使用できない。そのため調査では、ワクチンの仕入本数を把握すると売上に正しく反映しているのか、いないのかが直ぐにわかってしまう。