13年間眠っていた口座が、6年前に突然目覚めた

 税務調査では、仮装・隠ぺいの行為があった場合に7年間遡ることができる。確定申告しているのは事業主の医師Hで、妻の口座を使って売上を除外したと判断できれば、仮装・隠ぺいが成立する。そこで、7年間の調査を視野に入れて、口座の異動明細を調査した。数日後、銀行に依頼した口座照会の結果が税務署に届き、妻の口座の動きが判明した。

 口座には毎年、市役所から秋から初冬にかけて数回の振込入金があり、そのすべてが預金残高として溜まっていて、上田のイメージしていたとおりの「逆L口座」だった。一回当たりの振込金額は30万円から100万円に達する場合もあった。

 7年間の振込総額は約1700万円にも達していたが、出金はたった一回しかなかった。5年前のクリスマスの少し前にATMで100万円を出金していた。出金場所は、H医師の自宅の最寄駅にあるATMコーナーだった。

 税務調査のヨミとして、この銀行口座を売上除外口座と判断するのは難しいかもしれない。なぜなら、市役所から振り込んでくるからだ。市役所は市民税を徴収する役所である。まさか、大胆にも、市役所からの振込入金を申告から除外していることは、一般的には考えにくい。H医師の確定申告状況から考えて、1700万円程度の金額を預金口座に放置しておいても、生活には全く支障は無い。

 しかし、妻名義の口座を調査した結果、売上除外口座と判断できる大きな特徴が見つかった。口座の異動状況を7年間調査したところ、7年前には口座の動きは全く無かった。そして、口座が6年前に動き出す直前に、ATMで1000円を入金して直後に1000円を出金していた。それ以前の移動状況は13年前と記載されていた。つまり、この口座は13年間眠っていて、6年前に突然目覚めた口座だった。

「よし、休眠口座が復活した」と上田は思った。

(次回は12月20日更新予定です)


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