「人生100年時代」。書籍『ライフ・シフト』が発売された2016年から、ビジネスパーソンを中心に一般化された言葉だ。寿命が長くなることで、既存の人生設計に頼るのではなく、新たな選択肢を持つ必要があると、著者のリンダ・グラットン氏は呼びかけた。「価値の高い知識を増やしているか」「仲間といい関係を築くために時間を割いているか」といった“無形価値”に注目が集まり、またそれを支えるためのバイタリティが必要とされている。
日本のスポーツドクターであり産業医、また、ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者でもある辻秀一氏もまた、独自のメソッドを用いて多くのアスリートやビジネスパーソンのメンタルトレーニングに携わってきた。辻氏が大切にするのは“非認知脳”だ。アスリートだけでなくビジネスパーソンも意識したい“無形価値”にも通ずるこの考え方について、辻氏に聞いた。(取材・文/編集者・メディアプロデューサー 上沼祐樹)
現代人はマインドレス?
動物界で人間だけが進化した「認知脳」
長い歴史の中で、人間の脳は認知的な部分が進化してきました。「結果を生み出すためにどのような行動をしたらいいのか」を考え、それを実行させる能力ですね。大昔の人間は生き残ることが重要だったのですが、今の時代では、「(ビジネスマンなら)会社を上場させる」「(スポーツ選手なら)オリンピックに出る」「(SNSユーザーなら)いいね!を沢山もらう」などの結果を求めています。
マズローの欲求でいうと、生命欲求と安全欲求だけが必要だった時代から、今では承認欲求や社会的欲求も必要になった。すると、外界(環境、出来事、他人)との接着が高まり、それにより比較が始まり、評価が生まれたんですね。ここは、動物の中で人間だけが進化した部分。
この人間の進化した認知的な脳だけが働いていると、「マインドレス」な状態になります。つまり、自分の心が失われた状態。現代において、このマインドレスな人が急増しています。大手企業の本社やセレブな街に、そういった傾向がありますね。また、スマートフォンが登場して、四六時中これを意識することで、常に外界に支配されることになって、認知脳が疲弊している時代と言えますね。