ダイエットにはズボラが最強!?「だらだら食べ、食後にちょこちょこ動く」で痩せる理由

早く痩せたくて激しい運動をしているけれど、全然痩せない――。そんな経験をした人は少なくないはず。産業医として年間5万人の健康指導をする総合内科専門医の益江毅医師は、著書『やせたい人はカロリー制限をやめなさい』の中で「少しばかり運動をしても、実際には脂肪はほとんど燃えない」と指摘する。むしろ、「運動とは言えない程度の軽作業」でも、タイミングを考えて実行することで、非常に効率よくダイエットを行うことができるのだという。(文・監修 /総合内科医 益江 毅)

運動は意外とエネルギーを消費しない!

 ダイエットに挑戦するとき、結果を急ぐ人ほど、急にジョギングを始める、スポーツジムで激しくトレーニングする、といったハードな運動から始めがちです。この考えの根本には、エネルギーバランスモデルの考え方があります。肥満の原因は、消費エネルギーが足りないためであり、消費エネルギーを増やすためには運動が必要だと考えてしまうのです。

 エネルギーバランスモデルの考え方だと、エネルギー摂取量とエネルギー消費量がつりあっていれば体重は変わらない、つまり体重は減らないということになります。体重を減らすには、摂取エネルギーと消費エネルギーの差をマイナスにしなければなりません。このためには、強力な食事制限(カロリー制限)を実施して摂取エネルギーを極限まで抑えつつ、消費エネルギーを最大まで増やすために、ハードな運動をすることが要求されます。こんなことができるのは、強靭な意志を持ったごく限られた人だけです。

 でも、果たして本当にそうでしょうか。人間の体は、ガソリンを入れて走る車よりもはるかに複雑なメカニズムでできています。単純に、物理学の法則に当てはまるものではありません。

 脂肪の蓄積には、体内の複数のホルモンがかかわっています。中でも強力に働くのが、すい臓から分泌されるインスリンです。インスリンは、血液中の糖を脂肪に変換して内臓脂肪に変える働きを持ちます。このホルモンの量をコントロールすることで、内臓脂肪もコントロールすることができるのです。

食後血糖値を抑える運動タイミングとは?

 消費カロリーをいかに増やすかではなく、血糖値の上昇を抑えることに発想を転換して運動の方法を改めて見直してみると、食後15分以内に運動を始めることで効果的に血糖値を下げることができることに気づきました。消費エネルギーを増やそうと毎日ハードな運動をするよりも、タイミングを考えて実行することで、運動とは言えない軽作業でも非常に効率良くダイエットを行うことができるのです。

 このタイミングを誤って、食前に運動をしても、食後の血糖値の上昇を抑える効果は全くないどころか、むしろ運動することによって食欲が増して食べすぎてしまう危険すらあります。

 血糖値が上がるのを抑えるためには、食べ方とともに、食後すぐに体を動かすことも有効です。そのメカニズムを解説しましょう。

 食事で糖をとり、インスリンが分泌されると、筋肉細胞の表面にある「インスリン受容体」に結合します。すると、インスリン受容体が活性化し、血液中にある糖を筋肉細胞内にとり込みます。筋肉への糖のとり込みにはもう一つ、ルートがあります。運動をして筋肉が収縮すると、細胞のエネルギー源である「ATP」が消費され、その結果、AMPキナーゼという酵素が活性化し、糖がとり込まれ、食後の血糖値が下がるのです。

 このような運動による筋肉への糖のとり込みの仕組みをしっかり活かすのであれば「血糖値が上がり、血液中に糖があるタイミング、つまり食後に運動する」のが最も効果的であることを理解いただけるでしょう。

だらだら食べて、ちょこちょこ動く

 しかし、そのためにわざわざ運動をする時間はとれないというのが忙しい皆さんの実感かもしれません。私は忙しい人にアドバイスをするときには「だらだら食べて、食後はすぐにちょこちょこ動きましょう」とお話ししています。食事はゆっくりと時間をかけることで、満腹中枢に「食べた」という信号が伝わり、最後にとる主食も食べすぎずにすみます。ゆっくり食べることで血糖値の上昇も緩やかになります。そして、食後はだらだらせずに「ちょこちょこ動き」ましょう。

 なにも食後にジョギングをしましょうと言っているのではありません。わざわざ走りにいかなくても、食器を洗い、食卓を拭き、掃除機をかけるだけでいいのです。普段日常的にやっている家事を食事のあとに行うだけでダイエットが手軽にできるのです。

 がまんして摂取カロリーを減らしたり、ハードな運動をして自分を追い込まなくても、このような「ちょっとした裏技」はたくさんあります。これらをなるべく多く日常生活に導入することで、苦労せずにダイエットに成功することができるのです。