アサリがまかれた浜には天然のアサリはいなかったようで、浜の持ち主は「浜を偽装集団に貸して、浜貸し代の収入を得ていた」ようだ。

 だが、蓄養はデメリットも大きい。アサリにすると、育った海と違う環境にすし詰め状態で、狭い浜にまかれる。環境の変化とラッシュアワーの中で、生き残れないアサリも少なからず発生する。

 偽装集団にすると、売りさばくのに時間がかかり、その間に多くのアサリが死滅するので歩留まりが悪くなる。蓄養の場合、浜にまく作業と引き揚げる作業が発生するので、人件費や運送費などがかなりかかる。それなら、蓄養などせずに、輸入したアサリをそのまま熊本産と偽装して市場に売った方がはるかにもうけは大きくなる(偽装の規模や利ザヤについては「『中国産アサリの産地偽装』で、熊本県の次に狙われるのが愛知県といえる理由」を参照)。

 すぐにさばけないほど大量に輸入した場合は、いったん熊本県で蓄養したかもしれないが、大半は蓄養せず、輸入したアサリを熊本県産として流通させたのだろう。熊本県も「輸入されたものを蓄養することなく熊本県産と偽装されたアサリの方がはるかに多いだろう」と推測している。

 つまり、蓄養する際の長いところルールが原因で偽装が行われたわけではなく、ほとんどが、単純に「中国産を熊本県産と偽って流通させただけ」なのである。

長いところルールを適用しない
シイタケで起きている問題

 一方で、長いところルールを適用していないことによる大変な問題も起きている。それが「シイタケ」だ(詳細は「『国産シイタケ』の多くは中国栽培、本当の栽培地を見分ける簡単な方法とは」を参照)。

 シイタケを、農産物と同様、収穫したところを産地とするルールにしたことで、中国で育てて日本で収穫した菌床栽培のシイタケが激増している。中国から輸入した栽培中(収穫前)の菌床は、17年に約1万5600トンだったのが3年後の20年には約3万6600トンと倍増している。