世界のオピニオンリーダーがSFに注目し、発想の源泉にしているのはなぜか? SFは知的好奇心にあふれるビジネスパーソンを強く刺激するだけでなく、未来を考えるためのヒントをたっぷり与えてくれるからだ。『SF思考』の編著者の宮本道人氏が、ビジネスパーソンにお薦めのSF作品をさまざまな角度から紹介していく。今回はアメコミのスーパーヒーローものの話題作から、SDGs時代のビジネスのヒントを探る。(構成/フリーライター 小林直美、ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)
ヒーロー映画の世界を一気に拡張したMCU
皆さんは、マーベルのヒーロー作品は好きだろうか? 筆者は大好きだ。
アイアンマン、キャプテン・アメリカ、スパイダーマン、ハルク……。超人的なパワーを持つスーパーヒーローたちが宇宙規模のスケールでド派手なアクションを繰り広げる! などと紹介すると「バカバカしい」と一蹴されそうだが、実は娯楽作品としてのエキサイティングさはマーベルの一面にすぎない。戦争、テロ、格差、差別といった、米国社会が現実に直面している課題が上手くストーリーに接続されていて、読み解くと学びも多い、深いシリーズというのが、もう一つのマーベルの顔である。
マーベル・コミックスはDCコミックスと双璧を成すアメコミの雄。出版社として80年以上の歴史を持ち、スーパーヒーローもののコミックスを中心に無数のヒット作を生み出してきた。こうして蓄積された膨大なコンテンツを、映画制作部門であるマーベル・スタジオが独自に実写化する取り組みが本格的にスタートしたのは2008年のこと。第1作の『アイアンマン』を皮切りに、大規模なクロスオーバー作品『アベンジャーズ』3部作を経て、最新作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』まで、すでに映画だけでも27本もの作品が公開されている。
すごいのは、これらの作品の全てが同じ世界観でつながり、「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」を形作っていることだ。それぞれの作品のクオリティーの高さもさることながら、興行収入面でも全米歴代トップ10のうち5本(!)をMCUシリーズが占めるという大成功を収めている。この広大なユニバースは今後どこまで拡張されるのだろうか? 期待は高まるばかりだ。
以上を踏まえ、今回お薦めしたいのは『ミズ・マーベル』である。え、知らない? それなら、ぜひこの機会にしっかり覚えておいてほしい。何といっても、本作の主人公は、これからのMCUを担う重要なヒーローになる可能性が非常に高いのだ。