もはやSFの言葉ではない。いま、「メタバース」がビジネスに大きな影響を与えようとしているが、そのはるか昔、1920年にチェコの一作家が生み出したコンセプト「ロボット」がもたらしたインパクトはそれ以上といえるだろう。ロボットは、誰もが知っていながら、その定義は曖昧だ。それほど社会全体に浸透し、活用方法の枝葉が広がっているともいえる。このコンセプトが社会に一般化したトレンドをたどることで、新しい言葉によって変わるこれからの社会が見えてくる。
ビル・ゲイツがビジネスパーソンに薦める
ロボットの物語
ビル・ゲイツが2021年に読んだお気に入りの一冊として、ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの『クララとお日さま』を挙げている。この作品は近未来、裕福な子どものパートナーとなったロボット「クララ」の視点で描かれたSFであり、ビル・ゲイツは「友情とロボットに関する示唆に富んだ話」と称えている。
実はこの「ロボット」という単語が示すものの範囲は、明確にはなっていない。しかし、それが明確ではなくても、多くの人々は何を意味するかをイメージできると思う。
SFが生んだ言葉はさまざまに存在するが、その中でも、この「ロボット」は最も大きな影響力を持った言葉といえるだろう。「ロボット」は自律的に動く高性能な機械を指す用語であるが、もっと広く、自動化を指す言葉としても普及している。例えば、社内業務の自動化技術として導入が進むロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の「ロボティック」も、由来をたどれば「ロボット」である。
ロボットという言葉は、チェコの作家カレル・チャペックが1920年に発表した戯曲『R.U.R.(ロッサム万能ロボット会社)』に由来する。これは、人間と同等の人造人間を召し使いとして供給する会社と、そこで作られた人造人間の反乱を描いた作品である。チャペックは兄の助言を受け、この人造人間をチェコ語の労働を表す単語から「ロボット」と名付けた。
今回は、この「ロボット」のトレンドがどのように誕生し、広まり、社会に影響を与えていったかを、幾つかのキーとなる作品から見ていきたい。