デジタル庁に見る、多様なメンバーとの組織文化づくり

心理的安全性の高い組織とは?「うちの会社は変わらない」を変える組織文化のつくり方唐澤俊輔(からさわ・しゅんすけ)
Almoha LLC共同創業者 兼 COO/デジタル庁 人事・組織開発
大学卒業後、2005年に日本マクドナルドに入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、全社のV字回復を果たす。2017年よりメルカリに身を移し、執行役員 VP of People&Culture 兼 社長室長として、人事・組織の責任者を務める。2019年からは、SHOWROOMにて最高執行責任者(COO)として、事業と組織の成長を牽引。2020年にAlmoha LLCを共同創業し現職。COOとして組織開発やカルチャー醸成のコンサルティングおよび、組織開発のためのサービスやシステムの開発に取り組む。併せて、デジタル庁にて人事・組織開発を担当。グロービス経営大学院 客員准教授。著書に、『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』。

中村:唐澤さんには、やはりデジタル庁について聞きたいと思います。ご自身で会社を立ち上げる場合は組織文化ってつくりやすいと思うんですが、いわゆるデジタル庁みたいに既存の組織に外部から入って、そこの組織風土や文化を変えようとされるときのポイントはあるのでしょうか。

唐澤:なかなか難しいんですよね。背景として、デジタル庁というのは官公庁におけるDX部門を外出ししたような形なので、官公庁全体のシステムに関わっていて、全体の生産性向上、内部のデジタル改革、顧客である国民とのタッチポイント改革など、いろいろと横断的に取り組む必要があるというそもそも難易度が高いことをしているうえに、行政から約400人、民間から約200人という規模の組織なので、お互いが即座には理解し合えないぐらい前提や背景が違うんです。

 役人の常識としては、まずこの人に根回しをして、それからこの人の承認を取れたら進む、みたいな会話が多いのですが、民間人感覚からしたら、進め方ではなくて中身の議論をしよう、となりますよね。こういうことが日々起きているので、前提や背景が違う組織をひとつにしていくところに、デジタル庁の置かれている難しさがあります。

 そこに入って何からやろうかと考えたときに、「官公庁は遅れているからデジタル化できない。民間に倣ってこう変えなさい」と言ったところで、通りませんよね。彼らには彼らの経験があって、それで国が回ってきている事実もあるわけなので、それも事実として受け止めます。そのうえでどうやって一緒にやっていくか考えましょう、ということです。

 僕はとにかく対話しかないと思って、ワークショップなどをたくさん開いて、官と民、いろいろなレイヤーの人が混ざってお互いがオープンに話す機会をつくってきました。「審議官殿」なんていう肩書ではなく、対話の場ではみんな「さん」づけにするなど、そういうところからつくっていって、「お互いにとって理想な状態って何だろう」と歩み寄りながら、落としどころを探しているっていう感じですね。

 そうしながら、バリューを中心に据える組織にしようということを目指しています。ルールや規則にあてはめた組織ではなく、バリューだけ定めるけど他のものは何も定めないっていう組織って、ある種、自律型に寄せていくってことなんですよね。自分たちで考える組織をつくろうという話なので、そのプロセスにみんなを入れながら、みんなで考えて組織をつくるというチャレンジの真っ最中というところです。

塩瀬:唐澤さんへの質問で、「グローバルで共感できるミッション・ビジョン・バリューのつくり方について教えてください」というコメントが入っています。デジタル庁もそうですが、そもそも出自が違う人たちが集まったときにこの3つをつくるのって、対話を重ねても、重ねれば重ねるほど出自の違いが出そうな気がするんですけど、どんなふうにチャレンジされますか。

唐澤:グローバルという軸でいくと、多様なメンバーを集めて一緒に議論するしかないと思っています。僕も「普通に考えたらデジタル庁のバリューはこうだろう」と自分ひとりで書くことはできますが、やはり話せば話すほど新しい気づきがありました。たとえば最初は「官民で肩組んでいこうよ」みたいなバリューを考えていたのですが、「官と民と言ってしまうと、対立が余計可視化されるからやめた方がいいのではないか」という意見が出たり、「官の中でも、出身省庁によって官と官の対立もあるのでは」とか、「民と民でも、大企業もいればベンチャーもいるよね」みたいな話が出てきたりして、結局600人全員がバラバラであるということに気づいたんです。そうした対話のプロセスの中で、「多様な人材」というキーワードが出てきました。

 このように対話の中に多くの人が入るほど納得感が高まります。全員が完全に入ることはできませんが、入った人が多ければ多いほど、その人たちが周りに話してくれるので、グローバルでつくるとしたら各国の人がそのつくるプロセスに入ることが重要だと思います。