退路を断って新たな仕事に挑むということ
Tomy:だからこそ、ラジオは大きなチャレンジなんですね。
井上:原稿がない中で長時間話すという新たなチャレンジは、自分に新たなプレッシャーを与えるということでもあります。もともと1人しゃべりは得意でないと自覚しているので、次のステージに行くために克服したいという思いが強いです。
Tomy:「あえて、いばらの道に」という感じなんでしょうか。
井上:おっしゃるとおりです。「自分の中の天使と悪魔が……」みたいな表現がありますけど、それで言うと、自分の中の天使はものすごくワクワクしてラジオをやりたがっていて、悪魔は「そっちに行かなくてもいいんじゃないの?」「別にラジオをやらなくても、ある程度、道を切り拓けるかもしれないよ?」「ラジオをやって全然ダメだったら評価が下がるし、冠番組をつくっておいて半年で終わるかもしれないし、リスクが大きいよ」って言ってます(笑)。
ラジオのプロデューサーから「本気でラジオやるの?」と聞かれたとき、「もちろん!」と答えましたけど、正直なところ、心の中では「どうしよう、退路を断たれるな……」と思っている自分もいました。
社内で“ラジオをやりたいアピール”をして、実際にはやらないという逃げもあり得ることですし、「あいつ、やる気はあるけど、いろいろ支障があってやらせるわけにはいかないね」と言われているくらいの状態がラクなのかもしれないな、思うところもあります。
1978年生まれ。某名門中高一貫校を経て、某国立大学医学部卒業後、医師免許取得。研修医修了後、精神科医局に入局。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、産業医。精神科病院勤務を経て、現在はクリニックに常勤医として勤務。27.7万フォロワーのTwitterが人気で、雑誌、テレビ・ラジオ番組にも出演。舌鋒鋭いオネエキャラで斬り捨てる人は斬り、悩める子羊は救うべく活動を続けている。『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』からはじまる「1秒シリーズ4冊」が人気で、最新刊で自身初の小説『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』も人気を博す。
Tomy:アテクシの友人に、某国家機関で働いていたのに、突然やめて、家族から猛反対をされながらも、弁護士に転身した人がいるんです。
「どうして?」と聞いたら「すごくいい職場で、地位も保証もされていて、エリート職なのは分かっていたけど、それでは満足できない。みんなに近い場所で、もっと泥臭い仕事をしたい」みたいなことを言ったんです。
もしかしたら井上さんがラジオをやりたいというのも、それに近い感覚があるかな、と思ったんですけど。
井上:その側面は大いにありますね。ラジオは自分が丸裸になる場所だと思っています。
せっかくの機会なのでお聞きしたいんですけど、Tomy先生はラジオリスナーとして、ラジオにどんなことを求めますか?
Tomy:1人のリスナーとしてリクエストするのは、幼い頃から知っている近所のおばちゃんが受験生になった自分に、「もうすぐ受験でしょ。大変だろうけど、頑張ってね」っていってくれた、あの距離感です。そういうスタンスでラジオから語りかけられると、なんとなくホッとして落ち着けますし、毎回聴きたいと思います。
洋楽などをランダムにかけてくれるFMラジオも好きなんですけど、DJやナビゲーターの違いによって、話の進み方が違ったりする感じがすごく有機的で面白いと感じています。好きになった番組って、いつの間にか毎回聴かないと落ち着かない気分になります。
井上:テレビも「皆さんの生活の一部になりたい」なんてことを言いますけど、ラジオは本当の意味で生活の一部になるチャンスがあるメディアだと感じています。毎週土曜午後1時になったら僕のラジオを聴いてくれる人がいる可能性があるところに、魅力を感じています。
僕自身、学生時代はそんなにラジオに触れてこなかったですし、特に若い世代では、ラジオというメディアに触れた経験のない人も多いと思うので、「こんなメディアがあるんだ」というのを知ってもらえると嬉しいです。