日本経済の停滞ぶりが「失われた○○年」と形容され、「日本は変わらなければならない」と言われ続けて久しい。「変わらなければ」論者は、あるときは、資本主義社会においてより普遍的といわれているアメリカ型の組織やシステムを、またあるときは、先ごろまでは好調だった中国経済を対象に現象面を比較し、異なる点を見つけては、日本のあり方は間違っている、遅れていると自虐的に指弾する。

そうした「反省」に基づいて、さまざまな改革が実際に試みられた。コーポレート・ガバナンス改革、DX改革、ROE重視の経営や、ジョブ型雇用……。日本経済が遅れていて、ガラパゴスだという論は果たして100%正しいのか。それとも改革は流行に流されていて、意味のないものなのか。あるべき姿とはどのようなものなのか――。疑問を持つ人は多いに違いない。

これらの疑問への多大なヒントを与えてくれるのが、ノーベル経済学賞候補に名を連ねたこともあり、スタンフォード大学でCIA(比較制度分析)の講座を立ち上げた、青木昌彦氏の著書『比較制度分析序説――経済システムの進化と多元性』である。丁寧に解説していきたい。

日本経済が脅威であった時代に
いち早く提言された日本企業の課題

 本書の単行本が出版されたのは1995年。バブル崩壊後、いまだ日本経済が他国にとっての脅威であり、日本異質論に対応して日本の経済システムを他の先進国と同様のものに変えなければならない、という外圧が強かった頃である。

 本書は、当時経済分析のツールとして機能し始めた情報の経済学、ゲームや契約の理論などの分析言語を使って、新たな視点から一国経済を分析し、多くの人が普遍的だというアメリカ型の経済システムも、特殊だといわれた日本型の経済システムも、多様な均衡解(さまざまな状況や条件が重なって暫定的に最適解のように収まっている状態)のひとつであり、状況によっては均衡解でなくなることを、一般向けに解説している。

 経済システムの多様な在り方や日本の経済システムの原型を理解することで、現在のシステムのゆらぎの把握や、この先に(少なくとも理論上は)あるはずのよりよい均衡点(よりよいシステムの在り方)への展開を感じることができる。それはマクロな国家の経済システムとミクロな組織と人の在り様の両方を接続して考えるうえで、非常に大きなヒントになる。