「世の中をあっと言わせる企画を作りたい」「自分の夢を仕事で実現させたい」「ユーザーの気持ちがわからない」「企画書が通らない」「プロジェクトを成功させる方法が知りたい」など商品開発や新規事業を生み出す上でのあらゆる悩みを解決!
本連載の著者は「千に三つ」や「一生涯一ヒット」と言われる食品(飲料)業界において「氷結」「スプリングバレーブルワリー」「淡麗」「キリンフリー」など数々のヒット商品を生み出してきた和田徹氏。実は入社から12年間、ヒット商品ゼロだったという著者なぜ、失敗だらけだった人が、ヒット商品を量産できるようになったのか? 売れ続ける商品づくりの全技法を明かしたのが『商品はつくるな 市場をつくれ』(3月15日刊行)という書籍です。刊行を記念し、本書の一部を特別に公開します。

なぜ、企画書を「上書き保存」してはいけないのか?Photo: Adobe Stock

バージョン違いもすべて保存。敗者復活で輝くアイディアもある

自分向けの企画メモ(企画書)は、考えを整理するためにあります。頭の中のアイディアを外に出し、客観視しましょう。ひと目で全体と個々の要素の関係が見てとれる状態にまで仕上げられると良いです。

手書きのメモなら、フォーマットや決め事に囚われずに、文字もぐちゃぐちゃでどんどん自由に書いていくのがいいでしょう。

ただし、2つだけルールがあります。

それは、①日付を必ず入れること、②上書きをしないことです。

その理由は、最新版の企画メモだけではなく、思考が変遷してきたバージョン違いも残しておくと、あとから古いメモを活用できるからです。

ひと目でわかる企画メモを仕上げる道のりは、曲がりくねり、行ったり来たり、トライ&エラーの連続です。削ってしまった言葉や捨てたアイディアも、また別の発想や文脈で見直したときに、突然、輝き始めることがあります。

実際、私も、数年たってから見返すことがよくあります。古い企画メモから新しい企画のヒントや展開イメージをもらい、最新版に統合することもありました。

消去や上書き保存はせずに、日時やバージョンを入れて別名保存か、履歴を追えるようにしておきましょう。

待つことも大切、チャンスは必ず訪れる

文字通り、急いては事を仕損じます。

むしろ、寝かしておくことが、より良い結果につながる場合が多々あります。

私の場合、数ヵ月~半年くらいはつくっては直し、また寝かせて、情報収集(インプット)して、また書き直し。そんな作業を繰り返します。機が熟し、企画として審議にかかるまで数十年かかったものもあります。気長にゆっくり待ちましょう。

例えば、クラフトビール事業の「スプリングバレーブルワリー」です。これは初期のアイディアから最終的な社内決裁まで20年以上かかりました。高級なウイスキー並みの長期熟成です。

最初の着想は「淡麗」(1998年発売)と同時期でした。その後、何度か浮いては沈み、いよいよチャンスが訪れたのは、ちょうど50歳になったとき。ひとりで複数の新カテゴリー創造企画を立ち上げたときです。その中の本命案が、クラフトビール事業でした。

さらに1年間ほど企画書を書いては直し、磨きをかけ、上司や周辺部署の反対や突き返しでさらに進化を遂げ、いつのまにか仲間が桃太郎のように一人増え、二人増え……。最終的に社長への直談判でゴーサインを得ました。

当時就任したばかりの磯崎功典社長は「やるなら、世の中を変える、すごいことをやってくれよ!」と決断してくれました。ただクラフトビール事業に参入するだけでなく、「本気で」市場そのものをつくり変えるための強力なサポーターとなってくれたのです。

この経緯を見ても、やはり「その時」はあります。

「Great thing comes to those who wait.(待つ人には素晴らしいことがやってくる)」は私の商品づくりの信条のひとつです。

焦らずに、腐らずに。待つ選択肢を持ちましょう。

そのためにも、自分の思考の変遷を残しておく必要があるのです。

(本原稿は、和田徹著『商品はつくるな 市場をつくれ』を編集・抜粋したものです)