低炭水化物食は、がんの予防や進行抑制に効くか否か。現時点で明快な答えはない。
賛成派の主張は、低炭水化物食で、がん細胞のエネルギー源となる糖質を枯渇させて「兵糧攻めにする」というもの。懐疑派は低炭水化物食でがんの縮小を認めたのは動物実験やサンプル数が小さい試験であり「はっきりしたことは言えない」と慎重な姿勢だ。
国立がん研究センター「がん対策研究所予防関連プロジェクト」では、1995年と98年の食調査に回答した当時45~74歳の成人男女(がんの既往なし)、9万0171人を2015年まで追跡。低炭水化物食とがんリスクの関係を調べている。
食調査を基に1日のエネルギー摂取量から、炭水化物、たんぱく質、脂質の総エネルギー比を計算し「低炭水化物スコア」を作成。スコアが高いほど炭水化物の相対的な摂取量が少なく、その分、たんぱく質や脂質をエネルギー源としていることを意味する。
期間中に1万5203人ががんを発症しているが、低炭水化物スコアが低い順に5分割して比較した結果、スコアが高いほど――つまり、炭水化物を食べる量が少ないほど、直腸がんの発症リスクが高く、逆に胃がんのリスクが低いことが示された。
さらにたんぱく質・脂質の摂取源別に調べると、低炭水化物かつエネルギー源として肉など動物性の食品に依存すると全がん、大腸がん、直腸がん、肺がんのリスクが上昇した。一方、植物性たんぱく質・脂質を主なエネルギー源としている場合は、何ら影響は認められなかった。
興味深いのは胃がんで、エネルギー源が動物性、植物性にかかわらず、炭水化物の摂取量が少ないほど発症リスクが低下した。研究者は「炭水化物が多い食事では胃酸の分泌が減り、胃がんを引き起こすピロリ菌の増殖、成長が促進されるのだろう」と推測している。
赤身・加工肉など動物性食品のがんリスクはこれまでも指摘されている。成人が低炭水化物/低糖質ダイエットを実践する場合は、たんぱく質と脂質源にも気配りをする必要がありそうだ。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)