豊田章男社長のスピーチは日本トップ!?考え抜かれたテクニックとはバッテリーEV戦略に関する説明会での豊田章男社長(トヨタHPより)

近年、顧客や組織人員の多様性が進む中、堂々たる言葉で人の心を動かすことができるリーダーが必要になっている。しかし、日本の中でも最先端のプレゼンの質を誇示している人物がいる。トヨタの豊田章男社長だ。そのスピーチ・プレゼンに向き合う覚悟とスキルは、全ビジネスパーソンが見習うべきものだ。彼はこれまでさまざまな良いスピーチを残し続けているが、今回は2021年12月に行われた「バッテリーEV戦略に関する説明会」を具体的にひもとく。トヨタがプレゼンテーションに懸ける思いの強さを感じると同時に、私たちが学び実践できるものに直結できるだろう。(株式会社カエカ代表 兼 スピーチライター 千葉佳織)

冒頭から「振る舞い」に力を入れる

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 冒頭、幕が取り払われ、豊田社長の姿が現れた。その直後の振る舞いは無意識にできるものではない。

 まず、彼は右手、左手の順に手を広げた。その時、顔の動きも手の動きに合わせて周囲を見渡す。そして、一歩前に出てきて「こんにちは、豊田章男です」と名乗り出す。冒頭から、どのような振る舞いをするか計算して、ジェスチャーを挿入しているのだ。つまり、彼のプレゼンは言葉だけでなく、振る舞いによっても大きく伝わり方が変わることを理解している。

 ジェスチャーも、小さく出すのでは意味がない。自分の体(手)を精いっぱい広げて初めて思いが伝わることを彼は知っているのだ。その大胆な動きに、私たちはこれから何か大掛かりなことが始まるんだ、という期待感を持つ。

 ジェスチャーの効果はこれだけではない。プレゼン中に強調したい言葉に合わせて、ジェスチャーを出すことができると、言葉はより重みを増して相手に伝わる。例えば、前半このような表現がある。

「カーボンニュートラル。それは、この地球上に生きるすべての人たちが、幸せに暮らし続ける世界を実現することだと思います」

 ここを話す時になってはじめて、両手を広げて話した。そして重要な言葉を言い終わったら、手を元の場所に戻すのである。

 さらに、時折、左右に数歩程度移動しながら話している。かつてスティーブ・ジョブズもよくステージで移動しながら話していた。実はこの振る舞いと立ち位置にも効果と意図があるのだが、どんな戦略が隠れているのだろうか。