豊田章男社長バッテリーEV戦略に関する説明会での豊田章男社長 Photo:Bloomberg / gettyimages

堂々たる言葉で人の心を動かすことができるリーダーは、日本にまだ少ない。しかし、トヨタの豊田章男社長は、日本の中でも最先端のプレゼンの質を誇示している。そのスキルは、全ビジネスパーソンが見習うべきものだ。今回は前回に引き続き、2021年12月に行われた「バッテリーEV戦略に関する説明会」を具体的にひもとく。トヨタがプレゼンテーションに懸ける思いの強さを感じると同時に、私たちが学び実践できるものに直結できるだろう。(株式会社カエカ代表 兼 スピーチライター 千葉佳織)

「書き言葉」と「話し言葉」の性質の違いを
理解した原稿ライティング

*新作発表会の概要と全文はこちら

 豊田社長はスピーチにおいて、冒頭から計算し尽くされた振る舞いで人の心をつかんでいる。また、構成や演出にもさまざまなテクニックが駆使されていた(前回記事『豊田章男社長のスピーチは日本トップ!?考え抜かれたテクニックとは』参照)。

 しかし、まだ他にも特徴がある。

 まず、今回の豊田社長の新作発表の言葉は、一文が短い。話し言葉として違和感がある文章がない。書き言葉は基本的に一文が長くてもよいが、話し言葉には時間軸が備わる。人間の記憶に定着させるためにも、極力一つの情報は一つの文章で終わらせて、早めに「。」で締めくくることが必須である。

 今回の発表の原稿を用意した人や豊田社長は、その一文の短さの大切さを理解している。

 その理由は、一つ目に「接続詞が多用されている」ことからうかがえる。「さらにこれから」「だからこそ」「そして」など接続詞が多いため、一文が短い傾向にあり聞きやすい。次にどんな情報がくるのか予測もできるため、理解を促しやすい。

 二つ目に挙げられるのは、「文章の順番による工夫」である。

 例えば、「小さいクルマだからこそ、電費性能に徹底的にこだわりました」という文があったとする。これを豊田社長は、より人に伝わる言い方に変えている。