資源価格急騰による実質所得の減少
日銀は金融緩和をむしろ強化すべき
ロシアによるウクライナ侵攻は、資源価格の急騰を通じて世界経済にダメージを与えている。米欧先進国の今年の平均インフレ率は、5%を軽く超える見込みなど、インフレ懸念が高まっている。この結果、家計の実質可処分所得は大きく減少し、オミクロン一服後のリベンジ消費に影を落としている。
日本の物価の上がり方は、2%を一時的に超える程度で限定的だ。しかしながら、賃金の回復が緩慢なため、今年の家計の実質可処分所得は2%ほど減少する見込みだ。特にガソリンや食品など生活必需品の値上がりが目立ち、低中所得者の家計への打撃が大きい。
こうした中で、日銀の金融緩和政策の見直しを巡る思惑が出ていることは不思議だ。消費者物価の一時的な上昇に慌て、他国との連想でインフレを心配する場合ではない。そもそも、インフレの主因は、海外発の供給ショックであり、利上げで需要を冷やして収まるものではない。
原材料費の高騰で、値上げを発表する企業が増えていることは事実だ。ただ、デフレの原因である「企業の値上げ力(価格支配力)」が回復してきたわけではなく、値上げの殆どは、多少の売上減少を覚悟してやむなく踏み切った一時的なものに過ぎない。コスト削減で長年値上げを我慢してきたことが限界に来ただけで、利益拡大を狙った「攻め」の値上げとは性質が異なる。
むしろ現状は、出来ることならば金融緩和を強化すべき局面だ。資源価格上昇がもたらすデフレ圧力は、日本経済のアキレス腱で、「失われた20年」の大きな原因のひとつとなってきた。今回の資源価格上昇は、これまでと比べても群を抜く規模とペースのショックである。