ロシアによるウクライナ侵攻開始から7週間がたとうとしている。プーチン政権は、ロシア国内では情報統制を行い、国民に「うそ」をつき続けているようだ。かつて、旧ソ連圏の東ドイツでも、国民に経済の実態をひた隠しにしていたことが後に明らかになった。当時のデータを分析することで、現在のロシアのうそがいつまで維持できるのかを考えるヒントが見えてくる。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
ウクライナ侵攻からまもなく7週間
他国のけん制は通用せず
ロシアのウクライナへの非道な侵略が2月24日に始まって7週間がたとうとしている。侵略者に対するウクライナの勇敢な抵抗に胸を打たれるが、犠牲も大きい。ロシアは、圧倒的な軍事力で一挙に制圧するというシナリオが崩れた後では、民間人の犠牲もいとわない、あるいは恐怖を与えて屈服させるためか、汚い戦争を行っている。
ロシアとうまく折り合えとか、いじめっ子や家庭内暴力亭主にいじめられないようにうまく立ち回れとか言うがごとき、「現実主義」を標榜した言論にはがっかりさせられる。また、いじめっ子のプライドを考えてやれという言論もある。あるいは、早く降参したほうがいいという発言すらある。
このような議論の背景にある地政学的現実主義とは、私の考えでは、中世の封建主義、近代の帝国主義の時代を前提とした論理ではないかと思う。その時代であれば、「いじめっ子」の大国が苦戦すれば他の大国がいじめっ子を背後から攻撃するから、いじめっ子も勝手なことができない。大国同士のけん制で、大国も勝手なことができないという議論だと私は思っている。
ところが、他の帝国主義国が民主主義国になって、こんなけん制が効かなくなってしまった。アメリカは、早々と軍事力を行使しないと宣言してしまった。しかも、「いじめっ子」たるロシアは核を持っている。上記の「現実主義」を語る主張は不愉快だが、仕方のない面もある。では、どうしたらいいのだろうか。
「うその帝国」ロシアは
どんなうそでもつける
まず認識すべきは、ロシアは「うその帝国」であるということだ。うそはいずれ発覚するが、それまでには時間がかかる。ソ連が崩壊するまで、ロシアや東欧の経済はそれなりに発展し、国民の生活水準も向上していたとソ連は主張し、それを信じている人もいた。
次ページでは、東ドイツのデータから、長年にわたるソ連のうそを検証する。