キッチンのコンロやIHヒーターの上に設置する排気設備「レンジフード」。家庭の換気を支える同設備の供給台数において、国内で圧倒的首位のメーカーが富士工業である。だが同社は、食文化や生活習慣の違いにより、必ずしもレンジフードが売れるとは限らない中で、あえてアジア市場に進出した。なぜ国内事業が盤石な中、海外に打って出たのか。(ルポライター 吉村克己)
台所の“縁の下の力持ち”
レンジフードの国内首位企業とは
キッチンに不可欠な“縁の下の力持ち”といえる設備がレンジフードだ。コンロやIHヒーターの上に設置されている排気設備で、換気扇とそれを覆うフードから構成されている。目立たないが、これがあるからこそ人々は調理で発生する煙や臭いを屋外に排出できる。
レンジフードの一般家庭への供給台数で、圧倒的な国内シェアトップを走るのが神奈川県相模原市に本社を置く富士工業だ(2021年4月実績、東京商工リサーチ調べ)。
同社は日本に加え、シンガポール、中国(上海)、マレーシアにも拠点を置いている。独自ブランド「FUJIOH(フジオー)」を国内外で展開するほか、ガスコンロや食洗機といった厨房用機器も販売中だ。
ただしシェアが高い割には、国内においてはレンジフードと富士工業という社名が結び付きにくい。それは、同社が大手システムキッチンメーカーのODM(相手方ブランドによる開発・設計)生産というビジネスモデルを続けてきたからである。
取引先はシステムキッチンメーカーが中心で、年間約90万台を供給している。出荷台数ベースではODMが7割を占める。
とはいえ、1973年にレンジフードの生産を始めて以来、培ってきた流体解析技術や一貫生産体制を活用し、いくつもオリジナル商品を開発している。
近年のヒット商品は、排気を吸い込む際に、油の大部分を特殊ディスクで先に回収することで、ファンを含めたレンジフード内部をほぼ汚さない「オイルスマッシャー」搭載モデルだ。
日本だけでなく中国や東南アジアでも戦略製品として販売し、確実に人気を集めており、類似製品も出ているほどだ。国内外問わずフラッグシップ技術となっている。
国内では他にも、卓上の照明と空気清浄機能を一体化し、ダイニングで焼き肉などを行うときの油煙や臭いを軽減する独自製品を販売している。業務用空気洗浄機、送風機などもある。
そんな同社が海外進出したのは1993年のこと。シンガポールで現地の有力企業と合弁を組み、現地法人を設立した。
国内で圧倒的な地位を築きながらも、富士工業があえてアジア進出した理由は何なのか。