宮崎県串間市という小さな市で生まれた農業ベンチャーが、サツマイモの出荷量および輸出シェアで日本一を成し遂げた。業績も順調に拡大し、2020年度の通期売上高は15億円に達した。この会社はそれで満足せず、「世界一」を目指して海外進出にも力を入れている。船便で輸出してもイモが腐りにくい特殊な包装紙を開発したり、キズの自然治癒力を高める特殊な冷蔵庫を導入したりと、本気度は相当なものだ。その背景には、創業者のどんな思いがあるのか。(ルポライター 吉村克己)
過疎地域発の農業ベンチャーが
サツマイモ生産で日本トップに
宮崎県串間市という小さな市がある。人口は1万6400人ほどで、宮崎県内で人口が一番少ない。過疎化も進んでいる。その地に生まれ、名産品であるサツマイモ生産で日本一を勝ち取り、世界に飛び立った農業ベンチャーがある。
その企業の名は、くしまアオイファーム(以下、アオイファーム)という。自社生産分に300軒以上に及ぶ契約農家の生産分を含めると、サツマイモの年間の出荷量は約8000トンと、農業法人としては国内トップだ。
うち1000トン強を海外に輸出しており、日本から輸出されるサツマイモの36%(2019年)を占め、これもシェアトップである。
輸出先はシンガポール、香港、台湾を中心に、タイ、マレーシア、ドイツ、イギリス、カナダなど計10カ国/地域。紅はるか、宮崎紅、シルクスイートなど5品種を出荷し、「日本のサツマイモは甘くておいしい」と人気になっている。
シンガポールでは紅はるかやシルクスイートなどのネットリ系、香港・台湾では宮崎紅のホクホク系が好まれる。
「残念ながらコロナ禍で商談がストップしてしまいましたが、東南アジアだけでなくヨーロッパ、カナダ、中東への展開についても話は進んでいました。日本のサツマイモのニーズは世界中にあります」と、アオイファームの創業者であり、会長兼CEOの池田誠(51歳)は残念そうに語る。
アオイファームが法人化して本格的に海外輸出を始めたのは、2013年のことだ。それからたった5年間で日本一の輸出企業に成長し、いまでは売上高の15億円のうち、海外売上高比率は20%(3億円)に達する(20年度実績)。コロナ禍でも国内外とも順調に拡大し、21年度の通期売上高は17億3000万円以上を見込んでいる。
過疎地域においても成長を続ける、アオイファームのビジネスにはどんな強みがあるのか。また、同社はどんな経緯で創業したのか。