岩手県の安比高原の農場でシソを収穫する筆者。今も全国の農場を飛び回っている岩手県の安比高原の農場でシソを収穫する筆者。今も全国の農場を飛び回っている

地球温暖化や自然災害の増加、生産者の高齢化、地域コミュニティーの衰退、新型コロナウイルスの感染拡大など、日本の食料・農林水産業は多くの課題を抱えている。だが、農業はそうした問題の被害者であるばかりではない。地球に環境負荷を与える加害者の側面もあるのだ。連載「農業 大予測」の#2では、持続可能な農業の将来像を示すとともに、多くの問題を解決する鍵となり得る農業界の「オープンイノベーション」や「協業」の可能性について私の考えを述べる。(マイファーム代表取締役 西辻一真)

農業ベンチャーであるマイファームが
オバマ氏らが株主の靴屋さんと協業した理由

 農業というと環境に優しいというイメージがあるが、実は、現代の農法(肥料、農薬、耕作など)は、地球の持続可能性を破壊している。

 SDGsや環境の重要性が世界中で高まる中、日本の農林水産省は、地球環境への負荷の抑制など持続的な農林水産業の未来に向けて、「みどりの食料システム戦略」を策定し、具体的な行動計画の検討に着手している。それは、脱炭素を目指して農業を変えていこうという流れだ。

 しかし、私は脱炭素に取り組む以前に、現在の延長線上で、今の農業に必要な原料の調達や流通などに問題が表れてしまうと思っている。

 戦後、日本は人口増加に伴い、胃袋を満たす食べ物をたくさん作らないといけなかった。グローバル化で海外の食べ物も大量に入ってきた。その結果、みんなおなかはいっぱいで、世の中に食べ物があふれている現状だ。

 最近、ほうれん草や米の価格が大暴落しているという話を聞く。食べる人が少ない以前に、作っている量が多すぎるのではないだろうか。そうした現実があるのに、農業の振興策として「農家の数が少なくなるから農家を増やそう」という声が聞こえる。しかし、少なくとも「おなかを満たす農業」は、もはや日本ではコンプリート状態だ。

 それを承知の上で、おなかを満たす農業に挑戦する農業者は「勇者」であり「戦士」だ。私はそうした農業者に敬意の念を抱いているが、そういった飽和した市場で生き残るためには、農業者は考え方を変えなければいけない。他者と同じことをやっていても価格競争に陥ってしまい、多くの農業者が農業を継続できなくなる。