現在放映中のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は、北条義時が主人公。「義時って誰?」という人のほうが多いだろう。正直いって地味な主人公と思いきや、義時を演じる俳優・小栗旬さんをはじめ豪華なキャストと三谷幸喜さんの絶妙な脚本で、ふだんあまり時代劇を見ない層にも受け入れられ、高視聴率を維持しているという。
とはいえ、歴史の流れや、登場人物のキャラクターがわかっていた方がドラマは100倍楽しめる。そこで日本史の偉人の「すごい」と「やばい」の両面を紹介した『東大教授がおしえる やばい日本史』シリーズ(ダイヤモンド社)執筆者の滝乃みわこ氏に『鎌倉殿の13人』をさらに楽しむために、彼らの「すごい」面と「やばい」面を語ってもらった。
(取材・構成:小川晶子)

『鎌倉殿の13人』が100倍楽しくなる、歴史人物の「裏の顔」Photo: Adobe Stock

「武士の時代」を始めた平清盛は超すごい

 いきなりですが、平清盛って一般的にあまり人気がありません。独裁者的な悪人のイメージが強いんです。

 しかし、まずおさえておきたいのは、日本で初めて武家政権を誕生させたすごい人だということ。「武士の時代」は平清盛から始まったんです。

 もともと、平氏は天皇の子孫である貴族でしたが、権力争いに負けて貴族を守る武士となっていました。そのなかで、圧倒的な武力をもったのが、平清盛です。清盛は貴族同士の権力争いをどんどんおさめていき、武士でありながら貴族のトップの太政大臣にまでのぼりつめました。

『鎌倉殿の13人』が100倍楽しくなる、歴史人物の「裏の顔」

平清盛は、「少年スパイ軍団」を作って自分の悪口をチクらせた

「平家にあらずんば人にあらず」という言葉が生まれるほど、圧倒的な権力を手にした平清盛。

 ところが……。「いちいちそんなつまらんことをわしの耳に入れるな!」と威厳たっぷりに言い放つ、平清盛に扮する松平健さん(第2回「佐殿の腹」)からは想像もつきませんが、じつは自分の悪口に敏感だったのです。『さらに!やばい日本史』では、平清盛の「やばい」エピソードを紹介しています。

「誰かが自分や平氏への不満や悪い噂を言っているのではないか?」と疑念を抱いた清盛は、それを探らせるため、なんとスパイ軍団を結成したのです。

 スパイになったのは、14~16才ごろの少年たち300人。「禿(かむろ)」と呼ばれた少年たちは、おかっぱ頭に真っ赤な制服という個性的な姿で街を歩き回り、悪口に目を光らせていました。

 効果はてきめんで、彼らにチクられては大変と人々は恐怖し、表立って悪口を言う人はいなくなりました。

 しかし、平氏以外が冷遇され、言いたいことも言えないようでは不満がたまるのは当然です。こうして「平氏のライバル、源氏さんに平家を倒してもらわないと!」というムードが高まっていったのです。

頼朝ばかりがなぜそんなにモテるのか

 源頼朝は平氏によって伊豆に流されていました。『鎌倉殿の13人』はここから話が始まっていますね。

 さてこの頼朝、ドラマでは第1話からモテモテです。主人公・義時が密かに思いを寄せていた八重(新垣結衣さん)に子どもは産ませているし、義時の姉である北条政子(小池栄子さん)もすぐに夢中になっている。

「なぜ、小栗旬より大泉洋がこんなにモテているのか?」(正しくは「なぜ、北条義時より源頼朝がこんなにモテているのか?」)と、つい言ってしまった人もいたのでは?

 でも、源頼朝がモテるのはある意味当然なのです。源頼朝はイケメンだったともいわれていますが、何より「都人のオーラをまとっていた源氏のプリンス」というのがポイント。

 当時の伊東家にしても北条家にしても、しょせんは田舎の豪族に過ぎません。女性達は家を守るため親戚同士で無難な相手と結婚をすることが当たり前の時代でした。そこへ「雅な雰囲気をもった王子様のような人」があらわれ、見初められたとしたら、ドラマチックな展開に夢中になるのも仕方がない気がします。

 そして、モテモテの頼朝は、当時にしては珍しく恋愛結婚をしました。お相手は北条政子。

 鎌倉幕府の将軍の歴史を記した歴史書『吾妻鏡』には、政子には親が決めた婚約者がいて、その人と無理やり結婚式を挙げさせられそうになったものの、雨の中逃げ出して山を越え、頼朝のもとに戻ったという情熱的なエピソードもあります。大河ドラマでは頼朝と政子との結婚は「北条家の力を得るための戦略」的な描かれ方をしていましたが、『吾妻鏡』のほうが2人の恋愛がドラマチックに演出されているのです。

夫の浮気相手の家をぶっつぶした北条政子の恋愛観

 2人の愛のエピソードは「北条家が頼朝を手助けするようになったのは、政子が頼朝を愛したから」という趣旨で書かれています。それもそのはず、『吾妻鏡』は北条家の正当性を示すために書かれた歴史書だからです。頼朝の死後、政子は義時とともに鎌倉幕府の実質的な指導者となり、北条家が幕府を仕切るようになるわけですが、その正当な理由が「愛」だというのが面白いですね。

 平安時代は、男も女も複数の人と恋愛をし、特定の人に執着しないというのが都人(みやこびと)の心得でした。

 しかし、政子は違います。『やばい日本史』では都人のセレブな恋愛を真っ向否定の、こんなエピソードを紹介しています。政子が妊娠中、頼朝が「亀の前」という女性と浮気をしてしまったときのこと。政子は激怒して亀の前の家をぶっつぶしたそうです。ちょっとやり過ぎだけれど、平安時代の価値観よりは、現代人の恋愛の感覚に近いともいえます。

『鎌倉殿の13人』が100倍楽しくなる、歴史人物の「裏の顔」

イケメンで強いヒーロー? 義経の裏の顔

 源頼朝の12才年下の弟が源義経です。打倒平氏の頼朝に合流して戦で大活躍し、平家を滅ぼしました。日本史上でも、もっとも人気のある歴史人物の一人といえます。

『鎌倉殿の13人』で源義経を演じているのは、菅田将暉さん。自分の願いを叶えるためなら他人を陥れることも平気なサイコパス気味の美形キャラクターとして描かれており、新しい義経像として人気を博しています。

 義経は天才的な戦のセンスで平家を滅ぼしたにもかかわらず、その後兄の頼朝に追い詰められ、自害してわずか31才で生涯を終えました。そこから「悲劇のヒーロー」「薄幸の美少年」のイメージが強く、義経を演じるのはイケメン俳優と相場が決まっています。

 しかし、源義経について「美男子」だと書かれた史料はありません(兄の頼朝は美男子だと書かれています)。それどころか『平家物語』には、「義経はちびで出っ歯。だから遠くにいても義経だとすぐわかる」という記述が。

 遠くにいてもわかるほどの出っ歯とは……。裏の顔ではありませんが、歴史にはこういうイメージとのギャップの落とし穴もあるのです。

 『東大教授がおしえる やばい日本史』『東大教授がおしえる さらに!やばい日本史』には、歴史上の人物の「すごい」面と「やばい」面が紹介されています。本シリーズを読んで、『鎌倉殿の13人』をさらに楽しんでいただけたらうれしいです。