歴史上の人物の「すごい」功績と「やばい」人間臭さを対比させた『東大教授がおしえる やばい日本史』シリーズが、59万部を超える大ベストセラーとなっている(2021年7月時点)。
新刊『東大教授がおしえる さらに!やばい日本史』は外交がテーマ。中国、アメリカ、ヨーロッパをはじめとした世界と日本の関係の歴史を、「すごくてやばい」人物を軸に振り返った、爆笑必至の内容だ。
「こんなにおもしろい日本史、読んだことがない!」と、小学生から90代まで幅広い層に愛読されている本シリーズには、読んだ人が歴史好きになる工夫も施されている。
前回に続いて、外交がテーマの第2弾で、監修者の東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏が特にこだわったポイントについて話を聞いた。(取材・構成/樺山美夏、撮影/疋田千里)
「おもしろい」コンテンツこそ、
真面目につくらなくてはいけない
―― 『さらに!やばい日本史』は外交の歴史がテーマです。歴史学者として、このテーマで特にこだわった点はありますか?
本郷和人先生(以下、本郷) 実はこの本、ものすごく攻めてるんです。何を一番攻めているかというと、江戸時代の鎖国です。これ、学界的には叩かれるんですよ。江戸時代に鎖国はなかった、というのが今の主流ですから。
でも、前回お話したように歴史の史料編纂分析時代の修行を終えた立場からすると、「ちょっと待ってくれ」と言うのが僕の役目なんです。だって、ペリーがアメリカの大統領から「お前、日本を開国してこい」って命令を受けて、黒船でやってくるんですよ。それで日本が鎖国していないとは言い切れないですよね。
―― 確かに。多数派に異論を唱える人がいたおかげで、真実が解き明かされた歴史もたくさんあります。今回の本の制作にあたっては、1章から6章まで、中国との関係、大和魂の時代、ヨーロッパとの関係、鎖国時代、開国後、世界の中の日本の各時代について、横山さんに個人講義までされたそうですね。
本郷 ストーリーを考える上で、どうしても素材となるエピソードや知識は必要ですからね。5時間くらいかけてみっちり横山先生に解説しました。各時代で、日本と外国とのつながりがどうだったのか。日本が外国の文化をどのように取り入れて、国内でどのように発展させていったのか。その時代の主な人物はどんな活躍をしていたのか。日本人は、世界をどう見ていたのか。
そういう話をベースに、横山先生がマンガのストーリーを全部考えてくださいました。僕の専門知識と、横山先生のユニークな世界観を融合させる作業を、裏で何度も繰り返したので、かなり手が込んでいる本なんです。
歴史は、「現実」
だから表現が難しい
―― 私が『さらに!やばい日本史』で特におもしろいと思ったのは、横山了一さんの「この時代ざっくりマンガ解説」で、日本や海外の「国」が擬人化されていたり、戦争や対立をボクシングに置き換えた、思い切った表現や演出のインパクトです。
本郷 僕も、横山先生のマンガにはびっくりしました。「おもしろすぎる!」と言ってもいいくらい。ただ、内容に問題があるといけないので、専門家の立場で「こうしたほうがいい、ああしたほうがいい」と、編集の金井さんと何度も相談しました。
横山先生は解説が難しい時代も、本当に工夫を凝らしたマンガにしてくださって、ギリギリまで攻めてるんですよ。でも、たとえば太平洋戦争について解説する時代については、300万近い人が亡くなった戦争だったわけですから、犠牲者に対する敬意を払わなければいけません。そういうところは慎重に進めました。
特に、日本が敗戦する描写のコマを入れるかどうするかについては、横山先生もすごく悩まれたようです。編集担当の金井さんからも、「先生、どうしましょう」と相談がありました。そこでいろんな側面から検討して、それでもやっぱり日本に原子爆弾が投下された描写は入れましょう、ということになりました。
敗戦した事実をスルーするのも、それはそれで問題ですから、そこはきちんと描くべきだろうと思って。でも決して笑う場面ではないから、描写のテンションを他とはまったく違うリアルなものに変えて、そのコマだけは一切ふざけた要素を入れないことにしました。真面目なところはとことん真面目に、笑えるところはおもしろく、そういう横山さん特有のギャグマンガのバランスが、解説ページの読みどころじゃないかなと思っています。
―― そこに和田ラヂヲさんのイラストも入ってくるわけですから、おもしろさ絶大ですよね。ペリーがテニスラケットを持って「ジャパンオープン」と叫んでいる「すごい」イラストのあと、カツラをかぶって「なに頭ばっか見てんのかな?」と苦笑いしてる「やばい」イラストには思わず吹き出してしまいました。
本郷 ペリーの話は、絵も含めてすごくおもしろいですよね。
―― 先生が特に好きなエピソードはありますか?