あらゆる企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を経営上の重要課題と捉え、その推進に積極的に取り組んでいる。しかし、企業全体に関わる変革となるため、その取り組みはそうやすやすとは進まない。DX推進を担う部署が意気揚々と働きかけても、肝心の事業部門が全く動いてくれない……というケースは少なくないのだ。こうした状況を突破するための「4つの指針」について解説する。(レッドジャーニー代表 市谷聡啓)
意気揚々と改革に挑む
「DX推進部隊」が直面する難題
「これは、詰んでいるかもしれない」――。DX(デジタルトランスフォーメーション)の渦中にいると、そんなふうに脳裏になんとも言えない不安の影を感じることがある。
DXという言葉が高める期待感とは裏腹に、現実には手痛い洗礼を浴びることが少なくない。DXへの取り組みで最初に直面するのはそうしたギャップだ。
DXを推進するために「デジタル人材」を育成すべく、全社員がデジタルに関する新たな研修を受けるという企業は少なくない。一握りの人材のみがデジタル技術を扱うのではない。全社員がこぼれなくデジタルへの適応を目指すというのが会社の意気込みだ。さらに、普段の仕事には「アジャイル」が求められ、アジャイルに関する認定資格の取得も奨励される。
さまざまな新施策がめじろ押しで、その実行とデジタル戦略を担う新たな組織が作られる。そこに社内および社外も含めて適した人材が集められる。組織内の希少な専門性を結集させるところに経営の本気さもうかがえる。おのずと変革の機運も高まる。
しがらみなく存分に動けるよう用意された「出島」は、さながら小さなベンチャー企業だ。新組織に所属する面々はかつてない使命感を得ることになる。やがて、「出島」から新たなケイパビリティー(AI、データ基盤、アジャイルなど)を組織内に広げていこうとする活動が始められる。
既存事業を担う伝統的な既存部門への働きかけは意気揚々と言って良いだろう。「今までの状況を変えにきた」と、いわば救世主のスタンスともいえる。しかし、「組織のこれまでの歴史をここから変えていこう」という熱い思いを抱えた人々は、強烈な洗礼を浴びることになる。