セブン&アイ・ホールディングスが巨費を投じて進めてきたデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略が水泡に帰した。昨秋にDX部門トップだった幹部役員が事実上“失脚”し、戦略の目玉だったIT新会社構想も白紙となった。巨大流通グループの内部で何が起きていたのか。特集『セブンDX敗戦』(全15回)の#1では、ダイヤモンド編集部が入手した内部資料を基に、セブンのDX戦略が崩壊に至った全内幕を明らかにする。(ダイヤモンド編集部編集委員 名古屋和希)
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こつぜんと消えたセブン執行役員
内部資料が明かす“DX敗戦”
2021年秋、セブン&アイ・ホールディングス(HD)のある幹部がこつぜんとグループからその姿を消した。
その幹部とは執行役員だった米谷修氏だ。米谷氏は、セブン&アイが大号令をかけて推し進めてきたデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の鍵を握る最重要人物である。
リクルート出身の米谷氏は同グループのIT施策を担うリクルートテクノロジーズで最高技術責任者(CTO)を務めた。ネットサービスのID統合などを手掛けた実績に加え、複数の著書も残し、業界ではITやシステムのエキスパートとして知られる。
そんな米谷氏がセブン&アイに迎え入れられたのは19年2月。翌20年4月にはDX戦略の「司令塔」としてHDに設けられた新組織、グループDX戦略本部の本部長に任じられ、13万人もの従業員を抱える巨大流通グループのDX戦略のかじ取りを担ってきた。
そのいわば「船頭役」がひっそりと退任したのだ。
ホームページの役員一覧にあった米谷氏の名もいつの間にか削除された。しかし、役員の人事異動にもかかわらず、セブン&アイは対外的には公にしていない。社内では公然の事実になっているにもかかわらず、である。
これはただの幹部人事ではない。その背景にはセブン&アイがひた隠しにする「不都合な真実」がある。
実は、今回の米谷氏の退任は事実上の“失脚”であり、多くの人員と資金を費やしたセブン&アイのDX戦略が、短期間で水泡に帰した証左なのだ。
セブン&アイはなぜ“DX敗戦”を迎えることになったのか。今回、ダイヤモンド編集部は、大量の社外秘の内部資料を入手した。
セブン&アイが自らDX戦略大失敗の原因を“総括”したその内部資料は、同時に長く同社が抱える本質的な経営課題を浮き彫りにする。
創業家役員が絡む人事のゴタゴタや、セブン-イレブン・ジャパンなどの有力なグループ会社のかじ取りの難しさ……。さらにその社内の混乱は、外部の取引先であるITベンダー・コンサルまで巻き込んで翻弄した。
「DX推進は単なるITツールの導入ではなく、経営の抜本的な改革が併せて必要だ」――。DX成功の教訓としてよく語られるこの言葉は、そのままIT戦略で迷走を続けてきたセブン&アイにも当てはまる。今回のDX敗戦は、ビジネススクールの教科書に掲載すべきような“失敗”の象徴事例なのだ。
本特集では大量の社外秘の資料や動画から、セブン&アイのDX戦略が崩壊した全内幕をひもといていく。
まず初回は、外部のコンサルやITベンダーをも“活用”したすさまじいまでの内部での追い落としの様をお伝えする。