米国も実はキャッシュレス途上国?
ところが、日本では店舗での支払い時には現金比率が高い半面、クレジットカードに加えて交通系、流通系のICカードなど、1人当たりのカード保有枚数が世界的に見ても多い、いびつな状態にある。一般社団法人キャッシュレス推進協議会の「キャッシュレス・ロードマップ 2021」によれば、2019年の時点で、カード保有枚数は平均9枚もありながら、キャッシュレス決済の比率は24.2%に留まっている。これ以上決済手段を増やしたくないという消費者もあり、店舗側にとっても、どの決済端末を導入してどの決済サービスに対応すればいいのか、分かりにくいのが現状だ。
同資料によれば、米国ではキャッシュレス決済の比率が47%と半分弱を占める。日本(24.2%)よりは高い比率だが、強力なキャッシュレス化政策(※1)を行う韓国の94.7%、QRコード決済が先行した中国の77.3%と比べれば大きな差がある。実は、米国ではクレジットスコアの低さからカードを作れない層がそれなりに存在することに加え、盗難やスキミング被害への恐れからクレジットカード決済自体に不安を持つ人も結構いるため、それがキャッシュレス決済普及の妨げになっている。
決済のスタイル自体を改革するTap to Pay
アップルはデジタルカード化されたApple Cardを発行することでそうした懸念を払拭し、信頼性の面からキャッシュレス決済の推進に貢献してきた。そして、今年後半にスタートするTap to Payでは、すでにたくさんのユーザーがいるiPhoneがそのまま決済端末になるという店舗側への魅力的なアイデアと、素早く決済が完了する消費者側へのメリットによる利便性向上によって、“The Cashless Transaction for the Rest of Us”(使っていなかった人たちのためのキャッシュレス決済)を実現しようとしている(※2)。
もう1つTap to Payの優れたところは、すでに既存の端末でキャッシュレス決済を導入している店舗にとっても、また、キャッシュレス決済を利用してきた消費者にとっても、今まで通り、もしくはより簡単に決済を完了できるという点だ。既存のシステムから移行する際のハードルがゼロに等しく、たとえばレストランなどでは個々のフロアスタッフのiPhoneを使った支払いも可能と思われるので、これまでは決済端末が置かれた場所までの往復や、モバイル端末の順番待ちが必要だったテーブルでのカード支払いを、その場で即座に済ませられるケースも増えてくるだろう。
Tap to Payは、単に決済端末をiPhoneで置き換えるだけでなく、支払いのスタイルそのものを変えていく可能性を秘めているのだ。