食料不足や医療機関の機能停止といった問題は、まず高齢者を直撃した。多くの市民はロックダウン実施直前にスーパーへ買いだめに走ったが、家族と同居していない1人暮らしの高齢者は、こうした食料確保に動くことが難しかった。

 また、ロックダウン後は日本でも報道されている通り、スマホアプリによる食材デリバリーの争奪戦が巻き起こったわけだが、むろん、こうしたスマホを駆使した食料争奪戦に高齢者がついていけるわけがない。以前から注目されていた「高齢者のデジタル難民問題」が、ロックダウン下で一層深刻な問題として浮かび上がってきた。

 上海ではロックダウン以降、市民が相次いでSNSで窮状を発信している。一部の投稿は大きく拡散され注目を集めたため、解決につながったものもある。しかし、多くの高齢者は自分自身で発信することができないし、当然情報を獲得するすべもない。悲惨な状況に陥っていることを、誰かに発見してもらうしかないのだ。

1人暮らしや老夫婦2人暮らしも多い上海
ロックダウンでヘルパーは自宅から出られず

 ある70代の男性は、持病の高血圧と糖尿病の薬がもうすぐ切れるため、自宅の所管の政府関係者に繰り返し電話をかけて薬の処方や配達の助けを求めた。しかし担当者からは、「何度も医療側に伝えたが、返事がない。こちらはどうにもならない」と突き返されたという。

 また、1人暮らしの80代の女性はロックダウン下でついに食べ物が底を突いてしまった。あまりの空腹に耐えきれず、住まいの「小区」の塀(柵)に手を出し、「だれか、食べ物を恵んでくれませんか?」と何度も叫んだ。
編集部注※数棟~数十棟のマンション群で構成されるコミュニティー。塀に囲まれている。

 そのほか、PCR検査で陽性が出たため、高齢にもかかわらずコンテナ仮設病院(基本的に治療する機能はなく、療養のみ)に無理やり隔離されたのちに高熱で亡くなった人、透析が必要なのに病院に入れず自宅で亡くなった人、持病の悪化で生死をさまよう人、冷蔵庫がスカスカで水だけに頼っている人……など悲惨な状況に陥った高齢者の例には枚挙にいとまがない。

 そもそも、上海市は人口に占める高齢者の割合が中国でも高い都市の一つである。上海市民政部門の発表によると、2020年末時点の上海市戸籍人口(約1478万人)のうち65歳以上の高齢者は約382.4万人であり、人口の25.9%を占めている。また、上海市の平均寿命も中国ではダントツで高く、84歳だ(全国平均は77歳)。

 また、上海では経済が発展するにつれ、核家族化が進んだ。一人っ子政策の影響もあり、現在60歳以上の世帯の6割以上が1人暮らしか夫婦2人で暮らしているという。そして、今回のロックダウンの一番の犠牲者となったのが、まさに社会の弱者である高齢者たちなのだ。

 その中で最も深刻な状況にあるのが、介護が必要な人や、寝たきり状態になっている高齢者たちである。

 上海市では2018年に始まった上海版介護保険により、在宅の高齢者の介護度によってヘルパーを派遣するシステムがある。また、多くの高齢者がいる家庭では、介護のためにパートのお手伝いさんを雇っていた。しかし、ロックダウンにより、これまで通っていたヘルパーが自宅から出られなくなってしまったのだ。

 1人暮らしの要介護の高齢者は他者のサポートがないと、生きていけない。オムツの交換はできているのか、食事の介助はどうなっているのか、常用薬は切れていないか……など別居中の家族やこれまで介護に当たっていた人たちは不安を募らせている。