三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第81回は、FXの光と影に迫る。
FXはギャンブル?
道塾学園創業家の藤田慎司は主人公・財前孝史との三番勝負の第1弾にFX(外国為替証拠金取引)を指定する。決戦に備え、財前は投資部のFXスペシャリストである富永大貴から手ほどきを受ける。
外国為替市場は世界最高のカジノ。これは2つの点でFXの特徴をとらえた秀逸なフレーズだ。
ひとつは、FXは本質的に投資ではなく、まさにカジノに近いこと。このコラムでたびたび触れてきたように、私は投資とギャンブルの違いはプラスサムゲームか否かだと考える。
株式投資も短期ではゼロサムゲームに近い。株価が安いうちに買って、高く売ればもうかる。逆なら損をする。そんなゲームだ。売り手と買い手の損益を合わせるとトントン、あるいは手数料の分だけ若干のマイナスになる。
だが、長期の株式投資は、配当や企業の成長による株式の本源的価値の増大によって、参加者の損益全体がプラスになり得る。企業活動を通じて富が「市場の外」からプラスされるのだ。債券も国や企業などの発行主体が支払う金利は「市場の外」に原資があり、長期ではプラスサムゲームと考えられる。
株式や債券と違って、FXは「市場の外」からもたらされる富がない。2通貨間の金利差が生むスワップポイントは金利に似ている。だが、「高金利通貨買い・低金利通貨売り」から得られるスワップポイントを負担しているのは、同じ通貨ペアで売り買い反対の取引をしている投資家かFX運営業者であり、それは参加者と「胴元」の閉じた世界だ。
勝者が居れば必ず敗者が生まれる。参加者がお金を奪い合うギャンブルに似ている。
FXで確実に「勝てる」のは?
「世界最高のカジノ」という表現のもうひとつの秀逸さは、カジノや公営ギャンブルに比べれば「胴元」の取り分が比較的少ないこと。手数料に相当する売りと買いのスプレッドやスワップポイントの設定には、業者間で競争原理が働く。
ぼったくろうとしたらお客に逃げられてしまうから、利用者にとってのコストは一定の水準におさまる。同じお金の分捕り合いをするなら、参加者の取り分が多い方が「最高」だろう。
中央銀行や各国政府まで加わるプレイヤーの多彩さ、高い流動性と透明性、通貨の選択肢の広さなど、カジノとしてみればFXは悪くない選択かもしれない。
もっとも、私自身はFXはやらないし、ほとんどの人にとっては縁遠いものだと考えておいて良いだろう。本質がギャンブルである以上、長期でみれば統計的に「負けるゲーム」であり、射幸性や中毒性も危うい。ビギナーズラックでたまたま勝ったり、逆に負けが込んだりしてレバレッジをかけて大勝負に出れば、リスクは一気に高まる。
ネットには必勝をうたうFXのトレーディング指南があふれているが、そんなモノでもうかるなら苦労はない。FXで確実に「勝てる」のはそんな甘い話に乗る新参者を食い物にするビジネスだけだ。それ以外の勝者は「胴元」とプロ・セミプロ、そしてほんのわずかな幸運な素人だろう。
外貨建て資産には、海外株や外債を組み込むファンドを通じた投資の形で簡単にアクセスできるし、コストも下がっている。それでもFXを選ぶ人は「ギャンブルであり、参加者同士で金を奪い合うゲーム」と肝に銘じて臨んだ方が良い。