今、若手ビジネスパーソンの間で、「茶道」に熱い視線が注がれている。ビジネスに求められる「おもてなし」の精神や所作を学び取れるということから、社外研修などに取り入れる企業も増えているという。一体、「茶道」がいかにしてビジネスに役立つのか。表千家同門会大阪支部で事務長を務めると同時に、不動産管理事業を営みながら若いビジネスパーソンを指導する立場でもある前田一成さんにお話を聞いた。(フリーライター 橋本未来)
客人をもてなす「茶道」の仕掛け
前田一成さんは、茶道の魅力を広げようと、千利休にゆかりの深い大阪府堺市にある「さかい利晶の杜」で、一般の人たちに向けた表千家のお点前を受け持つ。
ビジネスにも精通する前田さんに、「茶道」の魅力について教えてもらった。
「茶道は、お茶を飲んだり、お菓子をいただいたりすることが主な目的ではなく、客人をもてなすことに主眼があります。せやから、お客さまの状態を観察し、どのように接するのがベストかを考える。千利休の『守破離』という言葉一つとっても、ビジネスと密接な関係があるんですわ」
前田さんが語る「守破離」とは、先人が作り上げた型を徹底的に学ぶことで、自分の中で確固たる美意識を形成することを言う。その上で、「破」や「離」のプロセスに移行し、型を破り、離れることで、自分ならではのスタイルを確立していく。茶道には、その神髄が込められているという。
「茶道に唯一の正解はないということが、ビジネスと通じる点です。ビジネスにも、『不変の一手』というものはあり得ないでしょう?」
また、「茶道」には客人を楽しませる仕掛けがたくさんあると教えてくれた。例えば、「茶道」には欠かせない花や掛け軸、器もその仕掛けのひとつだ。
「かけ軸、器に、異風なものを用意することで、『これは、なんというものですか?』という話のきっかけになる。その知識に通じ合っていれば、より会話は盛り上がり、最高の時間を客人に提供できますがな」
たとえ、そうした知識に通じていない場合においても、「茶道」の「おもてなし精神」はしっかりと対応できる。
「仮に、そうした知識に疎遠な客人が来られたとします。そういうときは、お湯を沸かす音に耳を傾け、『お湯が沸いてますね』と静寂を共にするぜいたくを感じられたらええと思うんです」
茶道には、どのような客人が来られようと、相手を楽しませ、快適にさせる道具や手法が無尽にあるのだ。