気軽に自分の思いを共有・発信しやすいというメリットがある一方、見たくもない他人の華やかな人生が無遠慮に流れ込んでくる現代のSNSの仕組みに、苦しさを覚えている人も多いはずだ。日本だけに限らず海外でも、SNSで着飾った自分を表現することに明け暮れ、そのプレッシャーから病んでしまう人が増殖しているという。「承認欲求とどう向き合うか」といった諸問題は、現代病の一つとも言えるのかもしれない。
そんな、自分自身の承認欲求に振り回され、不安や劣等感から逃れられないという人にぜひ読んでもらいたいのが、エッセイ本『私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)だ。著者の川代紗生さんは、本書で承認欲求との8年に及ぶ闘いを、12万字に渡って綴っている。「承認欲求」とは果たして何なのか? 現代社会に蠢く新たな病について考察した当エッセイの発売を記念し、今回は、未収録エッセイの一部を抜粋・編集して紹介する(この記事は、コロナ禍前に書かれたものです)。

深夜のファストフード店でナンパに出くわした女が内心思っていることPhoto: Adobe Stock

その事件は帰路の途中で起こった

「ねえ、じゃあさ、はっきり言うわ。LINE教えて」

池袋某所、23時43分。

チャラチャラした男の声が、左から聞こえる。

はあ、と思わずため息が出た。

どうしてこんなことになってしまったんだろう。

「サキ、お疲れー」
「お疲れ様でーす」

私はただ、仕事を終え、帰路につこうとしていただけだった。そこでちょっと寄り道してしまっただけだ。

ああ、疲れた。お腹すいた、とつぶやきながら池袋駅までの道を歩く。書店員もなかなかハードだ。今日も終電近くなってしまった。早く帰ってベッドに飛び込みたかったけれど、どうしても空腹を抑えきれなかった私は、目に付いたファストフード店に入った。

ちょっとハンバーガーとポテトでも食べて、残ってる仕事片付けて、ちゃっと帰ろう。

そう思っていただけなのに。

「いや、これも何かの縁だからさ。ね、いいじゃん」

しつこい男の声がまた、聞こえてくる。いい加減にしてくれ。LINEのアカウントをなんとか聞きだそうとして、必死である。

「あっ、ごめんなさい。あたし携帯壊れてるんで~」

声がやたらと店内に響いている気がする。もう真夜中近いからだろうか、店内にいる人々も、各々帰り支度をしている。店中の全員がこちらを見ているんじゃないかという気がして、なんだかそわそわしてしまう。

「あー、出た出た。絶対嘘でしょ?」
「いやいや」

こういうときに女が言う「携帯壊れてる」はイコール「お前なんかにナンパされても連絡先教えるわけねえだろボケ」という意味だということを、決して忘れてはならない。

やめてくれ。しつこい男は嫌いだ。

「ねえ、いいじゃん。仕事は何してるの?」
「え~と、接客業」
「接客かあ。大変だねえ」

なんだいなんだいこんな深夜に元気すぎやしないか、とうんざりする。

こんなに簡単に、女がつれると本気で思っているのだろうか。