深夜のファストフード店で出会う、男と女
彼ら二人組が隣の席に座ってきたのは、私が座ってから5分後くらいのことだった。
いつもは若者でごった返すファストフード店も、深夜だから人もまばらだ。観光してこれからホテルに帰るというところなのだろう、アジア人がカウンターでダラダラとよくわからない言語をしゃべっている。やたらとカラフルなキャリーバッグをゴロゴロと引きずっている女子二人。コスプレイヤーだろうか。テーブル席には露出の多い、渋谷パリピギャルと丸の内OLのちょうど中間くらいのキャピキャピした若い女の子たちが3人、ポテトを食べながらしゃべっていた。ドア付近の電源がある席では女子高生たちが携帯を充電しながら勉強していた。期末試験が近いのか、受験勉強なのかはよくわからないが、こんな深夜に勉強なんて体に悪い。女子高生なら女子高生らしくはやく家に帰って寝るべきだ。ま、でもこういう深夜に勉強という体験は強く記憶に残るいい思い出になるのだけれど。
中途半端に人がいる店内は、独特の、少しだれたような生ぬるい空気に満ちている。
まあそれほど長居する気はないのでどこでもいいのだけれど、広めのスペースを確保したかったので、パリピOL女子たちの会話がうるさいのが多少気になったものの、まあいいか、すぐに帰るんだしと、私はテーブル席につくことにした。
私が携帯をいじりながらポテトを食べていると、男二人が、まっすぐにこちらに向かってくるのが見えた。
ちらり、と顔を見る。
広告代理店で働いていそうな、ツーブロックのこなれた感じの男と、黒いTシャツにピアスをつけた肩幅の狭いホスト風の男。
いつも思うのだけれど平日深夜のファストフード店に来るそれなりの歳をした人間というのはどういう仕事をしているのだろうか。どうして広告代理店で働いていそうな男が、こんな時間にオシャレな私服を着てコーヒーを飲んでいるのだろう。
まあ私も人のこと言えないけどな、と思いつつ、私は黙ってポテトを食べ続けた。広い店内でもテーブル席だけはほぼうまっていて、空いているのは私とギャルOLの間の席だけ。いくらでも席が空いているのにわざわざここには座らないだろうと思っていると、驚くべきことに彼らはむりやりこちらに座ってきたのである!
いやいやいや、いくらでも空いている。
カウンターも電源席もソファ席も、二人分のスペースなんていくらでも空いている。
なのに。
店内は空いているのに、彼らはわざわざ私の隣を選んだ。
嫌な予感がした。
あー、これは、と思った。
くるな、たぶん。