職人=クリエーターの時代
そういった活動の甲斐あってか、「職人」の、社会的な位置付けの変化を実感しています。
私が入社した当時、細尾には大ベテランの職人が三人いるだけでした。それが、今では当時の五倍、一五人の職人がいます。
しかも二〇代、三〇代が増えています。
かつては人を募集しても集まらなかったのですが、今は募集をかけるとだいたい一〇倍から二〇倍くらいの倍率で応募があります。
みんなバックグラウンドも様々です。アート、ファッション、エンジニアなど。美大を出ていたり、服飾系の専門学校を出ている人も増えています。
「日本の美で世界に勝負したい」と、伝統産業をクリエイティブ産業として捉えて来てくれる。非常に優秀な人が多く働いてくれています。
これは、職人のイメージが変わってきていることが大きいと思います。
職人は今まで、「作業員」として見られることも多かった。西陣の現場でも、裸電球の前で高齢の職人さんがカタンコトンと織っているイメージがあったと思います。
GO ONの活動も、そういう固定的なイメージを払拭していきたいというのがあります。
職人を「手から美を生み出す人たち」と再定義し、周囲も、自分自身も誇りを持てるようにしていきたい。
職人が、自らの手で美を生み出す表現者とみなされるようになってきています。表現者としての職人の仕事に、若い人が集まってきているのです。
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。