FOOD&LIFE COMPANIES(F&LC)は5月9日、傘下の回転ずし最大手のスシローが最安値「1皿100円(税抜き)の看板を10月から下ろすと発表。円安や食材、物流コストの上昇を価格に転嫁する。回転寿司トップのスシローの値上げは、外食産業全体に影響が及ぶだろう。値上げはどこまで消費者に受け入れられるのか。あらたな正念場を迎えるわけだが、これまでも数多の壁にぶつかってきた。社長の水留浩一が売上高1兆円やグローバルブランド化に挑戦できる基盤を整えたのは、職人経営に最新の経営のノウハウを注入したユニゾン・キャピタルとペルミラという二つのファンドの力が大きい。「職人が産み、ファンドが育てた」スシローの歴史を振り返る。(名古屋外国語大学教授 小野展克)
社長は元トラックドライバー
堀江陽は今春、F&LC傘下の「あきんどスシロー」社長から、2021年4月にF&LCの仲間入りした「京樽」社長に転じた。その堀江が、「すし太郎」(現・あきんどスシロー)のトラックドライバーになったのは、今から20年以上前の1998年のことだ。
堀江が、物流センターからトラックで出発しようとすると、しばしば横のシートに乗り込んでくる男がいた。3代目の社長となる豊﨑賢一である。当時、彼は仕入れの担当だった。
「うちのアナゴは…」「うちのハマチは…」
豊﨑は、運転する堀江の隣で、ずっとすしネタの魚の話ばかりしていた。
「豊﨑さんって趣味はなんなんですか」
あきれた調子で堀江が聞くと、豊﨑はこう答えたという。
「まあ、仕事やな」
「何て人だと思いましたけど(笑)。今、僕が同じ質問をされたら同じ答えをしますね」
堀江は大学を卒業後、大手生命保険会社に入社した。給料は高かった。しかし、ノルマが未達になると会社は社員に数字を合わせるよう求める雰囲気があった。「家族に高額の保険をかけた」同僚もたくさんいた。そんな会社に嫌気がさして、退社したという。
堀江はアルバイトをしながら次の仕事を探そうと考えていた。そんなある日、「近所においしい回転ずしがある」と妻に言われて、家族で立ち寄ったのが兵庫県宝塚市にある「すし太郎」(現在のスシロー)だった。
そこから、堀江はもちろん、スシローのたどる道も激変していった。スシローは外食産業の常識を覆す戦略に出たのだ。