スシローを傘下に置くFOOD&LIFE COMPANIES(F&LC)は、昨年の春から社外取締役中心のモニタリング型の取締役会に移行した。では実際に取締役会では何が議論され、組織はどう変わろうとしているのか。社外取締役の活用を軸にした企業統治改革で、企業はイノベーティブに生まれ変わることができるのかに迫りたい。前回の『スシロー「次期トップ選び」の舞台裏 、ダメ社長のクビを飛ばせる企業統治とは』に続く、企業統治編(下)をお届けする。(名古屋外国語大学教授 小野展克)
日本マクドナルドは、なぜデリバリーで業績を上げたのか
昨年8月のF&LCの取締役会。
社外取締役を務める高岡浩三は、社長の水留浩一や他の取締役、執行役員に対して、こう問いかけた。
「コロナの影響で日本の外食産業は、皆テイクアウト一辺倒です。その中で唯一、マクドナルドだけが、デリバリーでハンバーガーをご自宅に運んでいる。マクドナルドは、国土の広いアメリカで成功した戦略を日本に持ってきて業績を上げている。実は日本でだって自宅で食べられた方がうれしい。すしの盛り合わせではなく、スシローのお店のように、自分の好みで選んだネタが自宅まで運ばれてきたらどうでしょう。こういう問題を解決するのがイノベーションですよ」
日本マクドナルドの2021年通期決算を見ると、本業のもうけを示す営業利益は345億円で、上場以来最高を記録した。コロナ禍で好業績をけん引したのが自宅までハンバーガーを運ぶデリバリーだ。
約2000店舗でデリバリーに対応、「Uber Eats」などの配送会社も活用しているが、900を超える店で「マックデリバリー」という自前の配送網を持っている。「マックデリバリー」は2019年には250店程度だったので、2年で急拡大させた格好だ。
一方のスシローも「出前館」などの配送会社を使ったデリバリーは増えているが、テスト的なケースを除いて「マックデリバリー」のような自前のデリバリー網は持っていない。コロナ禍にあって自前のデリバリー網を持つ日本マクドナルドの優位性は明らかになった。しかも、ポストコロナになっても、便利さに気付いた顧客はデリバリーを続ける可能性もある。
では、スシローはデリバリーをするということだろうか。
取材を進めて、私は大きな思い違いをしていると気づかされた。ここまでの高岡の発言を聞いて「ではデリバリーを…」という発想になりがちだが、ここに従来企業のイノベーションが進まないヒントがある。