スシローを傘下に置くFOOD&LIFE COMPANIES(F&LC)の日々の運営を担う執行役員たちは、多彩なメンバーがそろう。外資系コンサルティング会社の日本代表やJAL副社長を歴任した社長の水留浩一を筆頭に、大手銀行出身の出戻り、他の外食、食品メーカーからの転身、元フリーター、元トラックドライバーもいる。彼らの実績を評価、報酬を決め、選解任の権限を握って統治しているのは、取締役会だ。F&LCの取締役は社長の水留浩一を除く8人全員が独立した社外取締役で、昨年春から経営と監督を分離するモニタリングボード型に移行した。日常的に経営の実務を担うのは執行役員たちで、取締役は主に経営の監視役となり監督に責任を負う仕組みになった。グローバル化で売上高1兆円を目指すF&LCは、この企業統治体制で、新たな日本企業のありようを示せるのか。F&LCの企業統治の実像に迫りつつ、旧来型の「日本株式会社モデル」の課題を探りたい。(名古屋外国語大学教授 小野展克)
出戻りの常務
常務執行役員の小河博嗣をスシローグローバルホールディングス(現F&LC)に「呼び戻した」のは、社長の水留浩一だった。
「飯でも行かないか」
小河が水留から誘われて大阪の新地で食事をしたのは5年前の冬、2017年1月のことだったという。
小河は、スシローで経営企画部長や海外事業部長を務めた後にいったん退職しており、2015年に社長になった水留とは入れ違いで直接の面識はなかった。
当時の小河は、日系の大手投資ファンドの出資先企業に役員として派遣され、情報システムやマーケティング、経営戦略を担当していた。この企業の企業価値向上は順調に進み、のちにファンドの保有株は高値で他の企業に売却できた。そのディールのプロセス中であった小河に、次の仕事を探すタイミングが訪れていた。初めての会合の終盤になって、水留が小河に切り出した。
「これがオファーレターだ。ぜひサインしてほしい」
しかし、小河は、それから半年、水留と会食を重ねたが、なかなか首を縦にはふらなかった。小河にはスシローへの出戻りを断る理由があった。
「次はフルファンクションを備えた会社の社長になりたいのです。これは僕の人生でやろうと決めていることなので譲れません」
水留も簡単にはあきらめない。小河は唯一無二の経歴を持っていたからだ。