既に出来上がっている市場に
参入する必要は全くない

――「暮らしの足」以外にも進出し、一気通貫なサービスを目指すのでしょうか。

 既に出来上がっている市場に参入する必要は全くないと思っています。私たちは持続可能な社会における移動の格差をなくすため、MaaS(Mobility as a Service、マイカーと同等かそれ以上のシームレスな交通システム)の実現を目指しています。そのために必要と判断すれば当社が担う可能性もあるということです。

――mobiは2015年からWILLERが運営する京都丹後鉄道の走る京丹後市からスタートしていますが、両者にはどのようなつながりがあるのでしょうか。

 公募(※)でも全ての交通手段をシームレスにつなぐことが公共交通の利用促進につながるという観点から提案しました。そのためにパターンダイヤ化(毎時決まった時間に列車が来る分かりやすいダイヤ)、路線バスとの接続改善、利用しやすい運賃体系の導入など進めましたが、どうやったら鉄道をもっと利用していただけるかと考えた結果に、(自宅と駅またはバス停をつなぐ)暮らしの足の公共交通の必要性が見えてきました。

※京都府などが出資する3セク企業である北近畿タンゴ鉄道は、経営再建のため設備保有と運行を分離する「上下分離方式」を採用し、運営事業者を公募。応募4社の中から選定されたWILLERは2014年に「WILLER TRAINS」を設立し、2015年4月1日から「京都丹後鉄道」として運行を開始した。

京都丹後鉄道京都丹後鉄道(WILLER提供)

――mobiが様々な都市に拡大していく中で、暮らしの足と都市内交通の両方を自社で運行する京丹後市はレアケースで、ほとんどの都市では他社の提供する輸送サービスと連携する必要がありますが、どうお考えですか。

 今はまだmobiを軌道に乗せる段階で、この先どうなるかについてはまだお話できません。

 ただ、ちょっと過去にさかのぼると、mobiのサービスが始まる前はWILLERアプリという名前でした。(対象エリアの)公共交通が全て検索、予約できて、旅行オプションも利用できる、いわゆるよくあるMaaSアプリだったんです。

 私たちがMaaSを始めた当初、利用者の動きは長い移動(新幹線や航空機、高速バス)から短い移動(在来線、路線バス)へとつながっていき、それを補完するラストワンマイルがあるというイメージでした。ですが、長い方から追っていくと利用者の移動ニーズが見えづらかったんです。(大規模イベントなど)1年に1度しか使われないケースもありますので。

 これに対してmobiは、一番小さな移動から積み上げることで、利用者のニーズを把握できます。その先の鉄道やバスなど公共交通への乗り換えなどの実態も見えてくるので、(漠然とした接続ではなく具体的なデータに基づいた)連携の可能性はあると思います。