路線バスコロナ禍の緊急事態宣言でも、路線バスは交通インフラとして機能し続けた(写真はイメージです) Photo by Ryuko Sugimoto

新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言は、感染者数減少とともに「出口戦略」の段階を迎えた。1カ月を超える外出自粛や在宅ワークに終わりが見え、ほっとする向きも多いだろう。だが出口どころか、この間ずっと平時と変わらず働き続けた人もいる。公共交通機関や食品スーパー、医療機関などで働き社会基盤を支える「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人たちだ。彼らがコロナ禍で感じた、仕事の現実とはどのようなものだったのか?(ジャーナリスト 藤田和恵)

朝5時半に勤務開始
乗客は社会に不可欠な人たち

 バス運転手の朝は早い。始発便のハンドルを握る日、大阪市内の路線バス運転手の男性Aさん(50代)は朝4時前に起きる。出勤して点呼や呼気検査、車両の点検を終えると、5時半には営業所を出発するという。

 Aさんが勤務する路線バスは、かつては大阪市による直営だった。その後、赤字事業であることなどを理由に民営化が決定。2018年4月に大阪シティバス(本社・大阪市)に譲渡された。所属する運転手は約800人。市内のほぼ全域をカバーしている。

 コロナ禍で在宅勤務や外出自粛が進む中、乗降客数は通常の3割にまで減った。スーツ姿の会社員や制服姿の学生が減り、幼稚園や小学校が休園・休校と思われる小さな子どもを連れた母親や、高齢者の姿が目立つようになった。商店街やスーパーが近い停留所や、地下鉄やJRなどの主要な駅と接続している停留所で降りていくという。

 一方で、依然として「毎日結構な込み具合」になるのは、公立病院や民間の医療機関がある停留所だ。利用しているのは、看護師や理学療法士、薬剤師といった医療従事者や、清掃やリネン交換、給食業務などを担うスタッフたち。朝や夕方の出退勤の時間帯は今もかなりの人数が乗り降りしていくという。

 Aさんは「バス運転手は、エッセンシャルワーカーのためのエッセンシャルワーカーやな」と言う。

 エッセンシャルワーカー、すなわち社会を支える上で「不可欠な働き手」の重要性は、コロナ禍でかつてないほどに注目を浴びた。具体的には、Aさんのような公共交通機関の運転手のほか、医療従事者やスーパーのレジ係、警備員、宅配業者、保育士、介護士、ゴミ収集業者などだ。彼らの存在のおかげで、多くの人の在宅ワークや外出自粛生活は成り立っているといってもいい。

 だがいつもと変わらず働くことは、新型コロナの感染リスクにさらされ続けることと裏腹でもある。バス運転手も、例外ではない。