自信がない方が人とうまくいく

 いかにも自信満々に振る舞う人に嫌な思いをさせられた経験のある人は、少なくないのではないだろうか。

 実際、ポジティブな気分のときよりネガティブな気分のときの方が、対人場面で用心深く相手の気持ちを配慮し、礼儀正しく丁寧に関わるため、対人関係がうまく行きやすいということも心理学の実験で証明されている。

 さらには、不安が相手の気持ちに対する共感能力と関係しているということも分かっている。つまり、不安の強い人の方が人の気持ちがよく分かるのだ。

 心理学者チビ=エルハナニ(Tibi-Elhanany)たちは、対人不安と共感能力の関係を検討する調査と実験を行っている。対人不安というのは、人に対して気をつかいすぎて疲れてしまうような心理傾向を指す。その結果、対人不安の弱い人より強い人の方が、他者の気持ちに対する共感性が高く、相手の表情からその内面を推測する能力も高いことが証明された。

 不安が強いということは、用心深さに通じる。それが対人場面では、相手の心理状態に用心深く注意を払うといった心理傾向につながっていき、相手の気持ちがよく分かり、適切な対応ができるというわけだ。それに対して、不安があまりないと用心深くならず、対人場面でも相手の心理状態に用心深く注意を払うということになりにくく、相手の気持ちに関係なく自分の都合で一方的に関わることになりやすい。

 たとえば、不安の強い人は、人に何か言うときも、

「こんなことを言ったら、感じが悪いかもしれない」
「こういう言い方をしたら、気分を害するかもしれない」
「傷付けるようなことを言わないようにしなくては」
「うっかりすると誤解されかねないから、言い方に気を付けないと」

 などと考え、言葉を慎重に選び、言い方にも気をつかうものである。

 それに対して、あまり不安のない人は、相手がどう受け止めるか、どんな気持ちになるかなどを気にせずに、思うことをストレートにぶつけるなど、無神経な言動をしてしまう可能性が高いため、相手の気分を害したり、傷つけたりして、人間関係をこじらせてしまいがちとなる。

「不安な方が人とうまくいく」ということの背後には、このような心理メカニズムが働いているのである。