「成功を思い描けばうまくいく」は本当か?

 自己暗示に近いものとして、「成功を思い描けばうまくいく」というようなポジティブ思考を推奨するメッセージも世の中に氾濫している。でも、本当にそうだろうか。誰もが成功したいわけだし、成功を思い描くことでうまくいくなら、みんなうまくいくはずだ。でも実際には、いくら成功を思い描いたところでうまくいかないことが圧倒的に多い。

 心理学者のエッティンゲンは、成功を思い描くことの効果を検討するために、減量プログラムに参加している肥満女性を対象とした実験を行っている。プログラム開始前に、何キロ痩せたいか、成功する可能性はどのくらいあるかを尋ね、そのあと短いシナリオを与え、それを完成してもらうというものだ。

 減量プログラムを無事終えたところを想像してもらうシナリオもあれば、ダイエットのルールを破るように誘惑されるシナリオもあった。たとえば、「皿に盛られたドーナツを見つけるところを想像してもらう」というようなシナリオがそうだ。その際、自分の空想が、どれくらいポジティブ(またはネガティブ)なものであるかを評価してもらった。

 そして、1年後に減っていた体重を調べてみると、とても興味深いことが分かった。痩せることについて強いポジティブな想像をした人たち(たとえば、友人と出かけるスリムで魅力的な自分、ドーナツのそばを顔色ひとつ変えずに通りすぎる自分を思い描いた)の方が、ついドーナツを食べてしまうといったネガティブな自分を想像した人たちより、減った体重が11キロも少なかったのである。

 このような結果を元に、エッティンゲンは、目標達成を夢見ることは、目標の達成の助けになるどころか、むしろそれを阻害する、ダイエットに成功した自分の姿をうっとり夢見た人たちは、減量のために行動する気力があまり湧かなかったのだと結論づけている。

 成功を思い描くことで安心してしまい、気が緩み、モチベーションが低下するといったネガティブな効果を持つ可能性が高いといえそうだ。実際、うまくいくかどうか不安な方が必死になるということは、誰もが経験しているのではないだろうか。