メタバースでリアルな人間関係を築くことは
可能なのか

入山 人類はホモサピエンスになってから、そのダンバー数が150まで増えたんですが、それでも人間って信頼できる人が150人までしかつくれないんです。だけど、人間も霊長類なので近接感覚として味覚・嗅覚・触覚が重要なのでしょう。

 そうなると、人間はメタバースでどのくらい信頼関係をつくれるのかなと思いました。國光さんはどのように考えておられるのかなって。

國光 今の人間関係って実は匂いと味はあまり関係なく、実際は視覚と聴覚、そして握手などの一部の触覚で成り立っていると思っているんです。そして、これはVR、メタバース上で再現は可能です。

 例えばFacebook、LINEなどいろいろ存在しているソーシャルネットワークで考えてみましょう。SNS界隈でよく議論になっていたのは、リアルソーシャルグラフ(現実世界でのつながり)とバーチャルソーシャルグラフ(バーチャルな世界でのつながり)を比較した時に、「ネットでバーチャル友達が集まるのってどうなんだろう?」でした。

 これまでで言うと、絶えずリアルグラフが勝ってきたんですね。

尾原 mixiもそうだし、Facebook、LINEもそうですね。

國光 趣味の世界をそのままバーチャルにもってきて集まるものは、ほとんど失敗してきました。理由は簡単で、バーチャルでは会話が続かないんです。

 リアルであれば、日々これをした、あれを食べた、と会話が続くのですが、いざ知らない人と会って話しましょうと言われても、最初だけで会話がほとんど続かなくなるんですね。だからバーチャルグラフは尻すぼみになるものが多かった。

 そんな中、唯一続いているのがMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)なんです。オンラインゲームで長いものでは10年、15年くらい続いているものもあります。

 なぜ続くかというと、共通の目的があるからです。「武器を見つける」とか、「魔王を倒す」とか、「世界を救う」とか。こうした共通目的があるから、その目的に向かってみんなで会話したり、コミュニティーをつくったり、と続いていく。

 ここで重要なのは、コミュニティー形成ができる点なんです。ただMMOで足りなかったのが、先にお話しした実在感です。これまでもオンラインゲーム上で本当に友だちになったり、結婚したりする人もいました。

 このようにバーチャルのコミュニティーの上に、実在感というノンバーバルなコミュニケーションがついてくると、より多くの人がメタバース上で新しい人間関係をリアルと変わらず築けるようになると思っています。

入山 技術的にも、それは近いイメージですか?

國光 5年、10年というところまで来ています。

尾原 さきほどの進化生物学的な話でいえば、環境の相互作用の中で自分たちの特性ってできあがっていくわけですから。その辺がこれから楽しみな部分ですね。一方で、人間が猿だった頃から残っている部分もある程度影響するだろうし。その両方を鑑みながら、次に私たちがどう変わっていくのか予測していく。

入山 結局、人間って何なのかって話ですよね。

國光 昨今のメタバースやWeb3のブームでは、多くの人が「白か黒か」「Web2なのかWeb3なのか」「リアルなのかメタバースなのか」とゼロか1かで語っている印象です。「株式会社か、DAOか」とか。

 でも、どちらかが伸びたら、片方がなくなるという話ではありません。片方に得意なことがあれば、もう片方にも得意なこともあって、みたいなことなんです。

 インターネットが出た初期の頃も、インターネットの方がより効率的だから、とあっさり破壊された業界もあれば、変わらず生き残った業界や、新たに生まれたビジネスもあります。

 だから僕はWeb2、Web3であったり、リアルだったりメタバースであったりと、グラデーションを持ちながら両方ともに新しいチャンスが生まれてくる、そうイメージしています。