5年後はZoomに代わる別のバーチャル上のコミュニケーション手段がさらに発展しているかもしれない。だけれども、そこで体感できるのは基本は「視覚」と「聴覚」だけのはずなんです。あとはせいぜい「触覚」の一部。

 他方で、味覚と嗅覚の部分はオンラインではまだ厳しい。だから、リアルの方はここで差別化ができるのでは、と思うんです。

國光宏尚(以下、國光) 同感です。

入山 どんなにバーチャルコミュニケーションの技術が進んでも、味覚と嗅覚はこの先、そうですね、四半世紀先くらいまではオンラインで体感できるようにはならないのでは、と考えています。

 触覚の技術は進んでいそうですが、でもまだ先でしょう。だからリアル都市のあり方として、味覚・嗅覚・触覚を感じられるようにすることで価値が高まるはずだから、街づくりはそこを差別化しては?という話をしたんです。

『メタバースとWeb3』で印象的だったのは、メタバースの世界になるとプレゼンス(実在感)をより感じられることが重要になるという点です。

尾原 メタバースでは、ずば抜けた視覚・聴覚の体感が実現できるようになってきていますね。

入山 國光さんは、五感を含むメタバースの世界観をどう考えておられますか?

國光 メタバースの中でいうと、視覚と聴覚は100%再現できるどころか、バーチャルのほうがリアルを上回ることは、ほぼ間違いないと思います。

入山 ですよね。

國光 触覚は今のところヘッドセットとコントローラーくらいなんですね。となると今は30%くらいの再現段階ですが、今後いろいろなアクセサリーも出てくるので、触覚もだいぶ再現できるようになってくると思っています。

 そうすると、ここから2〜3年内で視覚と聴覚はバーチャルに置き換えられて、触覚も5年くらい先には70〜80%ほど再現できると考えています。ただ味覚と嗅覚はデジタル化ができていないのでまったく見当がついていないんですね。

尾原 これが最終的にバーチャルで置き換えられるのは、いつになるんでしょうか?

國光 味覚と嗅覚も突き詰めると脳の電気信号なので、いつか再現できるでしょう。ニューロンに直接つなぐというイメージですが、いまの時点では10年後でも無理だと思います。

 リアルな世界では、匂いと味の領域がさらに重要度を増してくることは間違いないでしょうね。

入山 なるほど。

國光 メタバースはコミュニティーを示す言葉なんですね。だから、「人が集まる場所=メタバース」です。VR、AR、MR、ミラーワールドなど、言葉が雑然としてわかりにくくなってきたので、それらをリブランディングしたのがメタバースです。

 シンプルに、「今までの2Dのインターネットコミュニティーが、3Dインターネットのコミュニティーに進化していく」ということが今回のメタバースの大きなポイントだと思っています。

 そこで何が決定的に変わっていくかというと、まさにセンス・オブ・プレゼンスだと思っています。

尾原 実在感ということですね。

國光 実在感がなぜ重要か、Zoomを例に説明しましょう。オンライン会議を通じて私たちが気づいたのは、何がZoomで十分で、何がリアルのほうがいいかということだと思うんです。ちょっとした打ち合わせならば、オンラインでいい。

 一方で、少し前にはやった「Zoom飲み」をいまでもやっている人は、ほとんどいませんよね?

入山 わかります。

國光 ここがひとつ大きなところで、やはり食事をしたりお酒を飲んだりするのにZoom越しは楽しくない、と気づいたからなんです。

 原因は明確で、インターネットはレスポンスが遅いためリアルタイムで情報を知覚できません。バーバル(言葉を使う)な内容は理解できるんですけど、うなずいたり、まばたきしたりといったノンバーバルなコミュニケーションを、リアルタイムに理解することができないんです。

 だから、Zoomだと会話が被ったり一方的になったりといった、リアルだと起こらないことが発生してしまう。ここは結構肝心で、私たちはバーバルという言語的なところだけじゃなく非言語的なところのコミュニケーションで相手をより理解しているんです。