上場企業の“用心棒”として株主対応などを手掛けるアイ・アールジャパン(東証プライム上場)が、上場規程に反して業績予想修正を適切に開示しなかった疑いが、ダイヤモンド編集部の取材で分かった。株価維持による最高幹部のインサイダー取引疑惑も浮上している。監視当局もこうした事実を把握し、調査に着手した。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)
証券取引等監視委員会が家宅捜索
副社長が突然辞任!企業の“用心棒”に激震
ついにアイ・アールジャパンがガサ入れ(家宅捜索)された――。
突然の捜査情報が駆け巡ったのは、6月1日のことである。同日昼、証券取引等監視委員会の捜査員が、東京・霞が関のアイ・アールジャパン本社に家宅捜索に入り、案件資料や社員の携帯電話などを押収したという。
さらに、その2日後に再び激震が走る。代表取締役副社長・COO(最高執行責任者)の栗尾拓滋氏が辞任したのだ。
アイ・アールジャパンは栗尾氏の辞任理由について「一身上の都合により (本人から)2022年6月3日をもって代表取締役副社長・COO及び取締役を辞任したい旨の申し出があり、これを受理した」とだけ開示している。
栗尾氏は、アイ・アールジャパン代表取締役社長・CEO(最高経営責任者)の寺下史郎氏の「最側近」(関係者)とされる人物である。1990年に野村證券に入社し、13年にアイ・アールジャパンに転身。法人ビジネスのプロとして、クライアント企業の拡大に貢献した。
実際、アイ・アールジャパンの近年の急成長は目覚ましいものがあった。
同社が強みとするのは、上場企業における実質株主の判明調査から、株主との対話を円滑化するIRコンサルティングだ。中でも先駆的な取り組みとして業界の注目を集めていたのは、アクティビスト(物言う株主)対応である。
日本において近年、企業に株主提案などを行うアクティビストの存在感が強まっているのは周知の通りだ。大和総研によれば、今年6月の株主総会で株主提案を受けた上場企業数は過去最多の68社。うちアクティビストによる提案数は半数の34社に上る。
アイ・アールジャパンは、プロキシー・アドバイザーとしてアクティビスト対応をいち早く手掛け、現在は実に全上場企業の16%、時価総額5000億円以上の企業の約5割が同社の顧客とされる。アイ・アールジャパンが日本の株主総会の“参謀役”、あるいは“用心棒”と呼ばれるゆえんである。
持ち株会社のアイ・アールジャパンホールディングスが15年に上場して以降の市場の評価も高く、21年1月には株価は前年同期比3倍近い1株1万9000円、時価総額にして3000億円を超えた。日本経済新聞でも「ニッチ市場に特化し、利益を効率的に稼ぐ企業」として取り上げられている。
そうしたビジネスモデルが故にアイ・アールジャパンは、ガバナンス(企業統治)や上場ルールについて、企業の模範であるべきことは言うまでもない。
だが、そんな同社に司直の手が伸び、最高幹部が不可解な辞任をした。一体、社内で何が起きているのか。ダイヤモンド編集部は、21年12月にアイ・アールジャパン内部で起きていた“市場への背信”を示す、ある証拠を入手した。