公立小学校のICT活用
実態はどうなっているのか?

 それでは、公立の小学校はどうだろう。

 2020年以前は、自治体間でICT教育に適した環境整備の進捗状況に格差が見られた。だが、コロナ禍による休校でオンラインによる授業や連絡の必要性が高まったことが国の「GIGAスクール構想」を後押しした。その結果、今までは消極的だった自治体にもICT環境が一挙に整うことになったのである。

 コロナ禍の混乱もある中でのICT活用の実態はどうなのか? 調布市立多摩川小学校で指導教諭を務める庄子寛之氏とICT教育主任の佐藤悠樹氏にお話を聞いた。

 この学校は、GIGAスクール構想の先進的事例の実証校に選ばれていた。2020年1月に調布市から、庄子氏が担任の小学5年生のクラス児童40人に一人1台iPad端末が与えられ、3カ月間試用していた。

 しかし、コロナの緊急事態宣言で実証実験は2カ月で終了、一旦iPadは引き上げられてしまった。その後、6月に学校で約100台を導入し、21年2月には全校児童750人全員に支給された。

 庄子氏は、「一人1台の端末支給は、非常に助かりました。導入前は不安を感じる先生もいましたが、操作を覚えればすぐに役立ちます」と話す。特にコロナ禍で学校が休校していた際、庄子先生は、児童や保護者とのコミュニケ―ションツールとして利用価値が高かったという。学校再開後も、端末を使った有効な学習方法や学習指導要領に準じた年間のカリキュラムなど、どんなことができるのか自分たちで積極的に計画を立てていったそうだ。

「小学校の授業でiPad」は効果的?大変?私立・公立校の教員6人に実態を聞く教師に向けたコロナ禍での教育の在り方を語るオンラインイベントを企画し、多くの参加者を集めた庄子氏。ちなみに、多摩川小学校のiPadは、YouTubeを見ることができない設定になっている

 とは言っても、本当に現場の混乱はなかったのだろうか。本音を聞いてみた。

 佐藤氏は「公立の場合、やれと言われることはしっかりとやる真面目な先生が多いので、端末の配布や高速通信の環境が整いさえすれば、みんな動くんです。ただ、内容に関しては、学校によってやはり差があると思います」と指摘する。

 その理由として、佐藤氏は先生側の抱える課題を挙げた。「今の先生は、自分が子どもの頃にはなかったプログラミング教育や情報モラル教育、人権教育、英語まで教えないといけない。みな、本当に忙しい毎日を送っています」と、ICT教育以前に時間の問題が日本の教育全体の課題となっているのだ。

 庄子氏は「ICTの活用には、先生の忙しさを軽減するツールとしても期待できると思っているんですけどね。時間が足りない中で、プログラミングだ、ICTだといって、子どもを新しい教育でどう導くかという深みにはまったら、逆効果ではないかとも感じています」と、佐藤氏の指摘にうなずきながら付け加えた。