「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』がついに日本に上陸した。ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。
反ワクチンキャンペーンで利益をあげていた活動家
ラリー・クックは自ら、「フルタイムの(反ワクチン)活動家」と名乗っていた。2019年、クックは、フェイスブックの「反ワクチン王」でもあった。
クックの営利団体SMV(1)(Stop Mandatory Vaccination=強制ワクチン接種反対)は、ソーシャル・メディアで反ワクチンのフェイク・ニュースを拡散することで収益を得ていたほか、反ワクチンの書籍を紹介することで、アマゾンからアフィリエイト料も得ていた。
さらにクックは、〈GoFundMe〉を利用したクラウドファンディングで資金を集め、それでウェブサイト運営にかかる費用や、フェイスブックの広告料、自分自身の生活費などをまかなっていた。
2019年にフェイスブックに出た反ワクチンの広告の54パーセントは(2)、クックの団体SMVか、ロバート・F・ケネディ・ジュニアが率いる団体「ワールド・マーキュリー・プロジェクト」が出稿したものだった。
クックの反ワクチン・キャンペーンは、ワシントン州の25歳以上の女性をターゲットにしていた。ワクチン接種を必要とする幼い子どもがいる可能性が高そうな層を狙ったわけだ。
その層を狙った150を超える投稿(3)は、クック自身のものを含む7つのフェイスブック・アカウントによって宣伝され、160万回から520万回のビューを稼ぎ、キャンペーンに使った費用1ドルあたり約18回のクリックを得た。
フェイスブックでは、クリック1回を得るのに要する費用は全業種平均でおよそ1.85ドルである。少し計算のできる人なら、クックのキャンペーンがとてつもなく効率的なものだとわかるだろう。このデータによれば、クックは1回のクリックあたり約6セントを支払っているだけということになる。
誤情報がSNSを全体を支配した瞬間
2019年の初頭、フェイスブックでワクチンに関する検索をした時の結果は、反ワクチンのプロパガンダに支配された状態になっていた。
ユーチューブの推薦アルゴリズムも、ワクチンに関する事実に基づいた医療情報を提供する動画を見た視聴者を、反ワクチンの誤った情報を提供する動画へと誘導する(4)ようになってしまった。
ピンタレストでは、ワクチンに触れた投稿の75パーセントが(5)、実際には存在しないはしかワクチンと自閉症との関係に言及するものだった。
ジョージ・ワシントン大学の研究者が2019年に発表した論文によれば、ロシアのツイッター・ボットは、通常のツイッター・ユーザーの約22倍もワクチンに関連する投稿をしていたという(6)。どうやらロシアは、ハイプ・マシンをハイジャックして、ワクチンに関する虚偽の情報を流していたと考えられる。
政治関連のフェイク・ニュースと同様、反ワクチンのフェイク・ニュースも、発信源は限定されており、そして短期間に集中的に流される。
『アトランティック』誌のアレクシス・マドリガルの分析によれば、フェイスブック上の主要な50のワクチン関連ページでは、ワクチン関連の投稿上位1万件のうちの半数近くが2016年1月から2019年2月までのあいだになされ、投稿への「いいね」の38パーセントがその期間につけられていたという(7)。
その期間、ワクチン関連の投稿上位1万件のうちの20パーセントは、わずか7つの反ワクチン・ページによってなされていた。
【参考文献】
(1) Julia Arciga, “Anti-vaxxer Larry Cook Has Weaponized Facebook Ads in War Against Science,” Daily Beast, February 19, 2019.
(2) Amelia M. Jamison, “Vaccine-Related Advertising in the Facebook Ad Archive,” Vaccine 38, no. 3(2020): 512-20; Lena Sun, “Majority of Anti-vaccine Ads on Facebook Were Funded by Two Groups,” Washington Post, November 15, 2019.
(3) Arciga, “Anti-vaxxer Larry Cook.”
(4) Julia Carrie Wong, “How Facebook and YouTube Help Spread Anti-vaxxer Propaganda,” Guardian, February 1, 2019.
(5) Nat Gyenes and An Xiao Mina, “How Misinfodemics Spread Disease,” Atlantic, August 30, 2018.
(6) David A. Broniatowski et al., “Weaponized Health Communication: Twitter Bots and Russian Trolls Amplify the Vaccine Debate,” American Journal of Public Health 108, no. 10(2018): 1378-84.
(7) Alexis Madrigal, “The Small, Small World of Facebook's Anti-vaxxers,” Atlantic, February 27, 2019.
(本記事は『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』を抜粋、編集して掲載しています。)