「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』がついに日本に上陸した。ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。
「世間は狭いな」と感じる瞬間
初対面の人が実は知人と知り合いで、「世間は狭いな」と感じた、そんな経験はあるだろうか。
すごい偶然もあるものだ、と思うが、実はそれはまったく偶然などではない。人間関係というものの性質からして、ごくありふれた出来事だと言えるだろう。
ネットワーク科学では、フェイスブックやツイッター、ウィーチャット、ワッツアップ、ピンタレストなどのネットワークは「スモール・ワールド(小さな世界)」と呼ばれている。いったいどういう意味だろうか。
私たちが日々暮らしているこの「スモール・ワールド」について理解するには、まず、そもそも人間はどのようにして他人と関係を築くのか、それがどのようにしてネットワークにまで発展するのか、という基本的なことを知る必要がある。
それがわかれば、なぜネットワーク上で人は密集してクラスターを形成するのかもわかるだろう。
「禁じられた三者関係」とは?
最初に重要になるのは、マーク・グラノヴェッターが「禁じられた三者関係(forbidden triad(1))」と呼んだ人間関係だ。
禁じられた三者関係とは、「二つの強固な人間関係が存在しているのに、第三の人間関係が存在しない」という状態のことだ。
そのような状態は非常に稀だとわかっている。「禁じられた三者関係」を実際に体験する人はほとんどいない。
「禁じられた三者関係」の理論
[図3─5]を見てほしい。
アリス、ベラ、シアラという三人がいるとする。
アリスとベラ、アリスとシアラとのあいだにそれぞれ強い結びつきがあれば、おそらくベラとシアラのあいだにも少なくとも弱い結びつきが生じる可能性は高いと考えられる。
「禁じられた三者関係」とは、たとえば「アリスがベラ、シアラのそれぞれと結びついているのに、ベラとシアラには結びつきがない」というような関係のことだが、これはほぼあり得ない。なぜだろうか。
アリスがベラ、シアラの両方と結びついていれば、ベラとシアラもアリスを通じて顔を合わせ、ともに時を過ごすことになる可能性が高い。
アリスとベラが互いに好感を抱いている場合、それはおそらく興味の対象が似通っているからだろう。
アリスとベラの興味の対象が似通っていれば、アリスとシアラの興味の対象も似通っている可能性が高い。数学でいう「推移関係」は人間にも成り立つことが多いので、ベラとシアラの興味の対象も似通っている可能性が高い。つまり、ベラとシアラも顔を合わせることがあれば、友達になれる可能性が高いということだ。
また、もしベラとシアラのあいだに不和が生じれば、アリスと二人のあいだの関係も損なわれる可能性が高くなる。アリスが引き続き、二人の両方と仲良くしようとしても、ベラ、シアラはそれを疑問に思う。
ベラはシアラと、シアラはベラと会いたくないと思い、どちらもアリスに、ベラあるいはシアラと絶交するか、距離を取るよう圧力をかける。そうすればお互いと会わずに済むからだ。
「似たものどうし」で集団はつくられる
このように、人間関係は、「三者閉包」の関係になることが多い。三者間の閉じた関係が生じやすいということである。
三者閉包の関係が多いということは、人間の社会には「似た者どうし」の集団が多いということである。似た人たちが集団(クラスター)を形成する。
クラスター内の人たちの結びつきは非常に強い(濃い)が、クラスターとクラスターのあいだの結びつきは弱くなる。同じクラスターに属する人たちは、人口統計学的な属性や、社会的、経済的な地位、興味の対象、考え方などが似通っていることが多い。
そして、他のクラスターに属する人たちと結びつくことは稀で、仮に結びついたとしても、関係は非常に弱いものになる。
「世間は狭い(2)」と感じる出来事がよく起こるのは、「三者閉包」から生じるクラスターと、クラスター間に稀に生じる弱い結びつきのせいである。社会にいる人どうしの距離は、実は私たちが普段思っているよりも近いことが多い([図3─6]を参照)。
クラスターは、時に非常に遠いクラスターと結びつくことがある。その結びつきは弱いが、そのおかげで非常に遠い位置にいる二人の人間が結びつくこともあり得る。
「世界中の人たちのあいだの隔たりは皆、六次以内になっている(3)」とも言われている。社会的に関係が遠いはずの人と自分に共通の知り合いがいるとわかって驚き、「世間は狭い」と思うことが多いのはそのためだ。
【参考文献】
(1) Mark Granovetter, “The Strength of Weak Ties,” American Journal of Sociology 78(1973): 1360-80.
(2) Duncan J. Watts and Steven H. Strogatz, “Collective Dynamics of ‘Small-World’ Networks,” Nature 393, no. 6684(1998): 440.
(3) J. Travers and Stanley Milgram, “An Experimental Study of the Small World Problem,” Sociometry 32(1969); Duncan J. Watts, “Networks, Dynamics, and the Small World Phenomenon,” American Journal of Sociology 105, no. 2(1999): 493-527.
(本記事は『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』を抜粋、編集して掲載しています。)