「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』がついに日本に上陸した。ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。

真実とフェイク、どちらが多くリツイートされる?Twitter大規模調査の結果Photo: Adobe Stock

真実と虚偽、どちらがリツイートされているか?

 フェイク・ニュースがネット上でなぜ、どのようにして拡散されるのか、その細かい仕組みについての研究はまだ始まったばかりだ。2018年までは、フェイク・ニュースについての研究が行なわれたとしても、分析の対象となるデータの絶対量が少なく、基本的には一度に一つのニュースについて調べられるだけだった。

 だが、私は、同僚のソルーシュ・ヴォソウギ、デブ・ロイとともにその状況を大きく変えた。フェイク・ニュースのネット上での拡散について10年にわたって調査した結果(1)を、2018年3月に『サイエンス』誌で発表したのだ。

 その調査は、ツイッター社と直に連携して実施した。2006年から2017年までのあいだに、真実あるいは虚偽であると立証された情報がそれぞれツイッター上で実際にどのように拡散されたかを調べたのである。調査対象のニュースは、ツイッター社が保管していた過去データのなかから抽出した。

 このデータは、300万人の人々が、450万回のツイートによって拡散した、およそ12万6000件のニュースである。個々のニュースが真実であるか虚偽であるかは、6つの独立したファクトチェック機関(スノープス、ポリティファクト、ファクトチェックなど)からの情報を基に判断した。

 どのファクトチェック機関でも、95~98パーセントの確度で真実とみなしているものだけを真実のニュースとしたのだ。また、MITとウェルズリー大学で学生を集め、ファクトチェック機関の判断に偏りがないかの検証もしてもらっている。

拡散のパターンを数学的に解析

 ツイッターがサービスを開始してから約10年のあいだに流されたニュースを包括的にデータベース化した後、私たちは、それぞれのニュースを最初に伝えた「元のツイート」がその後どのように共有されていったのかを追跡した。

 ニュースがネット上で拡散されたさいのリツイートの流れ(これを「カスケード」と呼ぶ)を再現しようと試みたのだ。カスケードを図に表すと、奇妙な、宇宙人を思わせるような形状になった。

 はじめは、元のツイートが四方八方にリツイートされ、まるで星から光が発せられているような形になる。また、リツイートもやはり新たにリツイートされる。その様子は、まるで触手を持ったクラゲのように見える。[図2─2]は、あるフェイク・ニュースのカスケードを表した図だ。

デマの影響力[図2-2]あるフェイク・ニュースのツイッターでの拡散の様子。線が長いほどカスケードが長く伸びたことを意味する。フェイク・ニュースが何度も繰り返しリツイートされ、広範囲に広がっていく様子が一目でわかる。

 カスケードがツイッター上で拡散するパターンは数学的に分析することができる。フェイク・ニュースと真実のニュースの拡散パターンの違いもその分析で明確に知ることができた。

フェイクの方が真実よりもリツイートされている

 分析の結果、私たちは、自分自身が驚き、困惑するような発見をした。フェイク・ニュースは、真実のニュースよりもはるかに速く、はるかに広範囲に拡散されていたのだ。リツイートが繰り返される回数もフェイク・ニュースのほうがはるかに多かった。

 まさに「桁違い」と言うべき差だった。真実のニュースが1000人以上に広まるのは稀だったが、上位1パーセントのフェイク・ニュースは、10万人くらいに拡散されるのが普通だった。

 真実のニュースはフェイク・ニュースに比べて、1500人に広まるのに約6倍の時間がかかっていた。

 また、元のツイートのリツイートが10回繰り返されるまでには、20倍の時間を要していた。

【参考文献】(1) Soroush Vosoughi, Deb Roy, and Sinan Aral, “The Spread of True and False News Online,” Science 359, no. 6380(2018): 1146-51.

(本記事は『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』を抜粋、編集して掲載しています。)