アリにはこれから巨額のファイトマネーを払わなくちゃならない。そういう契約ですからね。翌日はもう、外に出るのも怖い。これで俺が金を払えなかったりしたら、それこそ、俺のレスラー生命の終わりだ。挫折体験の最たるものだった。

 それに加えて自分の体を見てみれば足は真っ赤にはれている。いや、アリにやられたんじゃなくて、俺がアリをそれだけ蹴り飛ばしていたわけ。アリにそれだけのダメージを与えていたんです。

 これは試合を見ていた人にはわからないことだし、俺だって、(効いているはずだ)と信じているんだけど、その時はアリの様子について全然情報が入ってこなかったから。

 実際には、アリは試合のあとすぐ日本に一番近い韓国に飛び、ソウルの病院に緊急入院していたんだ。症状は左脚の血栓症。つまり俺に集中的に蹴とばされたために血管がつまり、血が通わなくなってしまった。

 アリの母国アメリカのマスコミにも、これは極秘行動だった。マスコミに洩れれば、アリの世界最強神話ももろくも崩れてしまうところだったはずだ。

自分の負けを認められた時、挫折が勇気に変わった

 それと、俺が落ち込んだ理由がもう一つあった。

「あの試合はジョークだったよ」