教えその2:CFOを事業部に配置する

 松下幸之助率いる松下電産の経営手法について、他の大企業と比較しても際立って特徴的だった点がもう一つあります。それは、経理社員制度です。

 松下では「経理とは経営管理のことだ」という教えから、一部の新入社員を“経理のスペシャリスト”として育成します。つまり、キャリアの初めから経理部門に配属し、その後、異動を行わずに、経理の経験だけを積ませるのです。

 これは、残りの一般社員のキャリアとは大きく異なります。多くの一般社員はやがて事業部長になるために、ジェネラリストとして配置転換しながら育っていくのです。だから、営業をやったり企画をやったり工場を経験したり製品開発をやったり…とさまざまな業務を経験します。経営管理のスペシャリストとして育つ社員とは対照的ですね。

 この経理社員に選ばれた人は、工場で原価管理を学んだり、バランスシートの勉強をしたりしながら、40歳には事業部の経理責任者になれるように育ちます。

 特徴的なことは、この経理社員が本社から派遣されて、本社から分かれた事業部長に仕えていることです。実は、立場としての二面性をもった仕組みになっているのです。

 経理社員は今風にいえば、事業部というベンチャー企業のCFOにあたるという仕組みです。松下幸之助は前述のように、松下電産という巨大企業をたくさんの小さな会社単位に分けてそれぞれの経営を事業部長に任せていました。さらに、それとは別にCFOとしての経理社員を育て、各事業部に派遣する。

 そして経理社員は事業部長の右腕として数字面から経営を助ける一方で、社長の松下幸之助に仕える立場でもあるということです。

 これは、たとえば事業部長が誤った経営方針で暴走した場合に、それを正す役割を果たせることにもなります。事業部長は経理社員をクビにできないよう、身分が保障されているので正論を主張しやすい。

 つまり、現代風にいえばガバナンスが利く組織制度になっているのです。それを昭和の時代に気づいて制度として設計し導入していた。このような先見性が、まさに経営の神様とよばれるゆえんなのかもしれません。

 松下幸之助自身は社長でありながら株主のように振る舞う、と最初に申し上げました。逆に言えば、組織の中にいる6000人の経理社員が報告する数字を見て、巨大企業の経営がきちんと回っているかどうかに目を光らせている。それもITなど存在しない、そろばんの時代に仕組みとしてこれを構築していたわけです。

 その成果が次の歴史的事件につながるのですが、それは3番目の項目としてお話ししたいと思います。